品川富士の頂上で、天使に出会う
小さな富士山のてっぺんは単に見晴らしがいいだけで、立派ななにかが存在するわけではありません。その頂上に高校生男子が二人。「ここで男を見せろ」とおたがいに言いあって、くねくねしています。
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決心したように叫んだ男子がポケットから取りだしたのは携帯電話。会話から推察するに、二人はそれぞれ好きな女子に電話をかけるところだったようです。
携帯電話を耳にあてていた男子は、やがて電話を切り、青空にむかって叫びました。
「いねえー!」
残念。
いや、天使だったのはこの素朴な二人ではありません。富士塚をのぼってきた年配の女性が私のカメラに目をとめ、「パレードの写真を撮るのですか?」と声をかけてきたのです。
「パレード?」
「そう、今日は宿場まつりのパレードがあるんだって。あたしたちも新聞記事を見て来たんだけど」
彼女は持っていた新聞の切り抜きを見せてくれました。
それによれば、今日は第16回目の「しながわ宿場まつり」の日。かつては東海道五十三次の宿場町だった北品川商店街を、江戸風俗行列や阿波踊りの人々が練り歩くようです。
よくわからないけれど、おもしろそう。よりによってそんな日に品川神社に来ることを思いたった私の偶然力はただものではありませんよね、とひそかに自画自賛したところで、彼女にお礼を言って富士塚をおり、品川神社をカメラにおさめました。神社をまもる巨樹のうしろから立ちのぼる雲が、まるで龍のように見えますね。 (写真右上)
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このあと私はパレードに出会ったり、カフェをみつけたりすることになるのですが、富士塚の頂上で出会ったあのおばさんの言葉がなければ、「しながわ 翁」でお蕎麦を食べるだけで帰ってしまったことでしょう。彼女は天使の役割を果たしてくれたのです。