王冠風にアレンジされた「サントノーレ」。
きめ細かいスポンジのクラムが、やわらかい口あたりを奏でる「サントノーレ」。ワンカットは800円。 |
クラシックなお菓子の中で、はずせないものと言えば、やはり「サントノーレ(3,500円)」。キャラメルをかけた小さなシュークリームを、いくつも積み重ねたアレンジも見かけますが、王冠のように輪になった形状にも出会うことがあります。
「COVA」は、後者の方。まわりには、チーズを粉状にするように、スポンジをざるで細かくすった、きめ細かいクラムをコーティング。真上には、つい指ですくって、ペロッと舐めたくなる、オーソドックスなバニラクリームとチョコクリームも交互にあしらわれています。
中は、スポンジ、カスタードクリーム、スポンジ、チョコレートクリーム、スポンジの5層構造。皆で切り分けて食べる時は、シュークリームが1人2個づつあたるくらいの5カットに切り分けるのが、適量だそう。
おもたせの場合、つい新しいもの、珍しいものに走りがちですが、そんな知識ばかりをひけらかすのは、必ずしも得策とは言えないもの。もちろん相手によっては、それが高得点をかせぐ場合もありますが、やはりおもたせの真髄は、食べる人を心から楽しませる、安心感に満ちているものであるということ。そういう意味では、ここのスイーツは、選んだ人の印象をもアップさせる、「育ちの良さ」を兼ね備えているのです。
伝統を素朴に、かつ上品に魅せるアレンジ。
アーモンドクリームの上に季節の果物がたっぷりの「フルーツタルト(ホール3,200円、ワンカット800円)」。ナイフを入れると、ザクッと音がする厚めのタルトが自慢。 |
実は、この「サントノーレ」に飾ってあるくらいの小さなシュークリームが、ミラノの「COVA」では、ワンカットのケーキ以上によく出るのだそう。
「イタリアはバンコ(バール)の文化が発達しているため、1日に何度も訪れ、コーヒーを愉しむ人が多いのです。なので、そのお供として、プチシューやプチタルトがよく売れる。個装されていないクッキーも、そのひとつです」と、パティシエ。
「ミラノの「COVA」での研修はいかがでしたか?」と伺ったところ、「やっぱりイタリア人は、甘いモノ好き。作る量の多さに驚きました。キッチンでは、来たばかりの私にも、「やってごらん!」とポンと仕事をさせてくれる。イタリア人ならではの度量の広さと親しみやすさを感じました」。
「フランスのケーキは、ムースなどが何層にも重なり、組み合わせに楽しみを見出しますが、イタリアはもっとシンプル。味で勝負は同じですが、「COVA」では、目新しいインパクトより、伝統を素朴に、かつ上品に魅せるアレンジを心がけています」。
気持ちのゆとりが源の「イタリアン何でも屋」。
酸味、甘み、香ばしさが一体となった「苺とピスタチオのタルト(ホール3,800円、ワンカット800円)」。 |
とは言うものの、ショーケースを見れば、しっかりフランス菓子の姿も。広報の吉岡さんいわく、「実はよく、何屋さんですか?と聞かれます」。そんな時の答えは、決まって、「イタリアン何でも屋」。
これは、片っ端から何でもごちゃ混ぜにするという意味ではなく、うまくいろんなものに迎合してゆく、気持ちのゆとり。それは、お菓子の種類のみならず、バール文化が根付いたイタリアのお店ゆえ、ダイニング、カフェ、バーカウンター、お菓子のショーケースが混在する店内もしかりです。
「どんなお菓子も空間も、それだけ見れば、ただひとつの積み木に過ぎない。でも、そこに、訪れてくれる人の雰囲気や、街のイメージが加われば、それはひとつのブランドになる。なので、ここであること、ここならではであることを、包括的に楽しんでもらえたら嬉しいです」。
欲しいのは、「ちゃんとしている」という価値観。
「COVA東京」の入口に広がるテラス席。 |
だからこそ、「COVA」は、全国展開はなし。現在は、名古屋と新宿にもお店はありますが、ディナーまでいただける本格的な店舗は、この東京店のみ。「丸の内という場所柄も、ブランドの一部を担っていると思えばこそ、ここにあるということを大切にしていきたい」。
「COVA」が目指すのは、真新しさではなく、「ちゃんとしている」という信頼感。「虎屋」と言えば、あの羊羹、「千疋屋」と言えば、あの果物というように、包装紙を見ただけで、ちゃんとした贈り物であることがわかる浸透感こそ、お店が一番欲しいと願う価値感なのかもしれません。
ご紹介します!