フレンチスタイルでいただく四川料理のコース。
左上から右回りに、名物のヨダレ鶏、クラゲの和え物、茹でエビ、豚耳のにんにく辛子炒め、とこぶしのマーラーソース、ハチノスのコンポー煮込み。 |
通常、「重慶飯店 麻布賓館」のランチは3,900円、ディナーは8,000円から。でも、この日は、アラカルトになる上海蟹もいただきたかったので、シェフにすべておまかせで、構成してもらいました。
最初に出てきたのは、前ページの「豚耳のにんにく辛子炒め」が組み込まれた「前菜の盛り合わせ」。こちらの名物料理でもある、バンバンジーを辛くした「ヨダレ鶏」、大葉とイタリアンパセリをあしらった「クラゲの和え物」、エビを茹でてオリジナルのマヨネーズで和えた「茹でエビ」、牛の胃袋を唐辛子でピリ辛に煮込んだ「ハチノスのコンポー煮込み」、とこぶしを山椒と唐辛子で煮込んだ「とこぶしのマーラーソース」が、ひと皿の上で饗宴します。
この始まりからもわかるように、ここ「麻布賓館」でのプレゼンテーションは、白いお皿にお料理が美しく盛り付けられるフレンチスタイル。大使館も多いエリアであることを考慮に入れ、円卓をぐるぐるまわす従来の店舗とは異なり、Corporate Diningサービスを取り入れています。
そのため、このひと品目も、花びらが飾られ、とても上品。味わいは、「茹でエビ」以外はすべて辛味だったのですが、山椒、唐辛子、醤油などを駆使することで、それぞれ違った段階の辛味を演出。見た目があまりにも美味しそうで、人がよだれをたらすところから名づけられた「ヨダレ鶏」も含め、胡麻ソースやラー油のコンビネーションに胃がとても刺激されました。
もちもちした皮に金粉が美しい「エビ蒸し餃子」。
渡り蟹の味噌で作った目が、こちらを見ている金魚の餃子。奥は、豚肉ベースの「海皇シュウーマイ」。 |
2品目は、金魚の形の「エビ蒸し餃子」。モチモチした皮の中は、豚のラードを混ぜたエビとタケノコ。それぞれ見ただけでもそれとわかるくらいの大きさに切られているので、プリシャキッとした歯ざわりは、とても楽しめます。渡り蟹の味噌で作った金魚の赤い目も、小さいのに皮と同様、もっちりです。
プチトマトを挟んだ向こう側は、豚肉をベースにした「海皇シュウーマイ」。中国語でガンペイと呼ばれる干し貝柱や椎茸、エビ、タケノコが混ざり合った味わいは、まるで旨みの玉手箱。なんとも言えない凝縮感です。
最高級ブランドの陽澄湖産上海蟹。
陽澄湖産を証明するシリアルナンバー入りの上海蟹。 |
アラカルトの上海蟹は、3品目に登場。身をほぐす前の生きたものをサンプルとして持ってきてくれるのですが、ひとつひとつにシリアルナンバーが入っていることにビックリ。最高級ブランドである陽澄湖産であることが、一目瞭然でわかるようになっているのだそう。
左がメス、右がオスの上海蟹。 |
並べられた大小2つの蟹は、小さい方がメスで、その2倍の大きさがオス。どちらも甲羅はグレーですが、お腹側はきれいなオレンジ。でも、その細い足には、びっしり毛が生え、見るからにむくのが大変そうです。
なので、こちらでは、よっぽど自分でむきたいとお願いしない限り、全部身をほぐした状態で提供してくれます。この日も、すのこ状に並べた足の上に、味噌を入れた甲羅を置き、隣りの白い陶器にはほぐし身を入れるという、スッキリと整頓されたアレンジぶり。でも、これは、日本だけ。中国では、自分でむいて食べるのが基本だそうです。
左がほぐし身、右が味噌。ほぐし身には、殻も時たま入っているので、食べる時には少々注意が入ります。 |
私達はこの日、女性3人でテーブルを囲んでいたのですが、食べ比べができるよう、2人はメスを、1人はオスをいただきました。
ちなみに、私の好みはオスで、他の2人はメス。2対1に分かれました。その理由は、脂ののり。私は、添えられた醤油と黒酢のタレを使わずに済むくらいの脂が好き。他の2人は、身はわりとパサッとしていても、濃厚な卵がたっぷり詰まったメスがお得と思ったよう。
どちらにしても、日本の蟹とは全然違うので、一度体験するのがお奨め。ただ、上海蟹の美味しい季節は、11月いっぱい。それを過ぎると、どんどん生臭くなるので、お店でメニューアップされているのも、その頃までです。
なので、これに関しては、時期だけをインプットして、来年しっかり予約するのがベター。もうひとつ覚えておくなら、10月は特にメスがおいしく、11月はオスがおいしいのが特徴です。
体を冷やす上海蟹を食べた後に飲む生姜茶。
日本でいう黒糖のような中国の黄糖が入ったほんのり甘い生姜茶。 |
また、上海蟹をいただいた後、中国でもたいがいの人が飲むのが、「生姜茶」。フレンチで言う、メインの前の口直しのシャーベット的ものかと思いきや、もちろんそれもさることながら、一番の目的は、体の保温。
上海蟹は体を冷やす作用があるため、食べ終わったら、お茶で体を温めるのが、向こうの習慣なのだそう。生姜に少し甘い中国の黄糖が加えられ、ホッとした気持ちになりました。
ベースは、豚の骨を6時間煮込んだ1番スープ。
香りの良さに思わずスプーンが止まる「松茸と季節野菜のフカヒレスープ」。 |
そして、次も体を温めるひと品。「松茸と季節野菜のフカヒレスープ」です。ベースとなるのは、豚の骨を6時間も煮込んだ1番スープ。この中に、鶏肉の千切りとタケノコ、干し椎茸、干し貝柱、松茸、フカヒレを入れ、コトコトその旨みを出していきます。
この日使っていたカナダ産の松茸。 |
羅列された食材だけ見ても、充分、その贅沢な味わいは伝わるかと思いますが、ここであえて強調したいのは、その香りの良さ。フカヒレをスプーンでかき分けていると、松茸のいい香りが立ち上ってきます。
でも、秋を感じるのは、香りのみならず。ここでは、「これを使いました」というパフォーマンスに、生の松茸も一緒に運ばれてきます(この時はカナダ産)。その存在を目で愉しみ、目の前のスープをいただく幸せ。このような気遣いも、「重慶飯店 麻布賓館」の良さのひとつと言えましょう。
インパクトは、酸味の効いた辛さ。
オーストラリアのイリアンエビのコンポーダレ。 |
そして次は、またエビのひと品。オーストラリアのイリアンエビを茹でた後で揚げ、唐辛子、醤油などを混ぜたコンポーダレでからめたもの。ひと口目できゅっとくるのは、エビのプリプリ感ではなく、酸味の効いた辛さ。ここでは、食感より、味わいにインパクトがあるようです。
少し甘みのある中国の丸い唐辛子と、すごく辛い日本のとがった唐辛子。 |
そして、ここでもサイドに置かれたのは、その食材。少し甘みのある中国の丸い唐辛子と、すごく辛い日本のとがった唐辛子。見ているだけで、舌がピリピリしてきそうですが、お料理には、このふたつが調合されているのだそう。
そんなキッチンの一部を、テーブルにいながら見られるのも、ここの魅力のひとつ。やはりお料理の美味しさは、視覚からのおもしろさもはずせない要因です。