フィリップ・マーロウとチェス
果てしなく続く狡知に長けた犯罪者との戦い。ミステリー小説では、探偵が戦いに疲れた頭脳をクールダウンさせるために(かどうかは定かではありませんが)ゲームに興じる姿を時たま見かけます。ハードボイルドの代名詞ともいえる、探偵フィリップ・マーロウ。かの有名な『長いお別れ』(レイモンド・チャンドラー/清水俊二訳 早川書房)の中にはマーロウがチェスをプレイするシーンが出てきます。
私はチェスの駒をならべて、スタインニッツ(チェスの名人)を相手に“フレンチ防禦戦法”を試してみた。彼は四十四手で私を負かしたが、私は彼に二度汗をかかせた。
チェスの名人相手に冷や汗かかせるとは、やるじゃんマーロウ! と一瞬思うのですが、実はこの後を読むと……
しかし彼は五十年前に死んでいて、チェスのゲームは本を見ながらの勝負だった。
うーん、一人チェスだったか。やはり、探偵は孤独なのか?
ジンラミーやモノポリーも作中に登場
もちろん、仲間とゲームに興じる探偵もいます。本人自身も前科27犯のアウトローでありながら、ニューヨークの暗黒街に巣食う犯罪者をぶちのめす探偵バーク。彼が活躍する一連のシリーズには、バークとその仲間で武道の達人の“音なしマックス”が、カード(トランプ)ゲームのジンラミーをやるシーンがよく登場します。例えば『ブルー・ベル』(アンドリュー・ヴァクス/佐々田雅子訳 早川書房)ではこんな感じ。
おれはマックスについて、二階へ通じる奥の階段を上がっていった。マックスはふだんはそのまま裏の部屋にいく。おれたちはそこでジンラミーのはてしない戦いを続けているのだ。
日本の小説でも負けてはいません。『白い家の殺人』(歌野晶午 講談社)の中には、探偵本人が愛好しているわけではありませんが、ちらっとモノポリーが登場し、作中の人物によってこう評されます。
いつ、どこに土地を買うか、家を何軒建てるかを見極めにゃならん。一等地を手に入れたところで、他人の駒が停まってくれんことには話にならん。先見の明とダイスのもたらす運が勝負を決する。
さらには過去記事『プロファイリングとゲームの関係』でもご紹介したように、アガサ・クリスティーの『ひらいたトランプ』ではコントラクト・ブリッジが、またヴァン・ダインの『カナリヤ殺人事件』ではポーカーが、事件を解決するヒントになっています。
ミステリーを読む愉しみは、フーダニットや巧妙なトリックなどいろいろありますが、双六屋の場合、劇中の小道具としてのカード&ボードゲームも探しも、それに勝るとも劣らないポイントになっています。
本日のミステリーな関連・参考サイト
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