オレの居所なら、電話帳に載っている
誰かが「ハード・ボイルドの真髄はつまるところ主人公にいかにかっこいいセリフをいわせるかだ」というようなことをいっていました。うん、なるほど、わかるぞ! 元ヘビー級ボクサーという異色経歴を持つボストンの探偵・スペンサー。彼が活躍する『初秋』(ロバート・B・パーカー 菊地光 訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)という物語の中で探偵はこうのたまいます。
「名はスペンサーだ。サーの綴りは、 詩人と同じようにSだ。ボストンの電話帳に載ってるよ」
これだけならどうということはないのですが、スペンサーはこの後にこう続けます。
「『タフ』という見出しの項にな」
ぐおおっ、かっけー!! 雑魚がいったら、ギャグにしかならないセリフなのですが、どんな圧力にも屈せず、つねに犯罪者との戦いに身をおくスペンサーがいうとマコトにサマになるのです。
男には大言壮語すべきときがある
ボードゲームのおもしろさは、ルールに則った駆け引きですが、プレイ中に交わされるプレイヤー間の会話にもあると思います。大会などの競技性が高いときは別として、気心のしれた仲間内でたのしみのためにやるゲームであれば、会話はゲームのスパイスであり、積極的に交わすべきでしょう。
ウィットやユーモアある会話が飛び交うテーブルを囲むのは何よりもたのしいし、そうでなくても会話があることによって、同じプレイをしても周りから爆笑を誘うことがあります。それは大言壮語をしたあとにギャップのあるプレイをすること。
「ついにこのゲームの奥義を体得したよ」といったあとにボロ負け。
「オレはサイコロの目を自在に操れるから」といったあとに最低のショボイ目。
「カードなんぞ気合で引くモンだよ」といったあとにブタ。
「完璧な打ち回しというものをおみせしよう」といった直後に大ポカ。
セリフとプレイの落差があればあるほど、いった本人が真剣であればあるほど、周りのプレイヤーは大笑い。これはもし全員が黙々と無言でプレイをしていたら生まれなかった笑いです。