久夛良木社長は「ピークを過ぎた」?
「BUSINESS 2.0」誌が独自に「重要な50人」「重要でない10人」を選出した中で、ソニー・コンピュータエンタテインメント久夛良木社長は「重要でない10人」の4位に入りました。Business 2.0: 10 People Who Don't Matter
ITmedia News:バルマー氏、久夛良木氏、「重要でない10人」に選ばれる
これは同誌が「重要な50人」のリストを作成する際、ピークを過ぎて影響力が弱まった」と判断した10人だそうです。つまり言い換えると「重要と思われがちだが今やそうでもない人」と言えるかもしれません。
主な理由としては「PS3は本体に搭載するBlu-rayのため、マイクロソフトや任天堂などのライバル機種より後発で、高価である」ということで、そのためPS3、Blu-ray双方とも成功の見込みが薄い、と論じています。
明らかに次世代DVD戦争、次世代ゲーム機戦争の渦中のキーパーソンでありながら「重要ではない」と切り捨てるということは、同誌にとってPS3の普及の望みは非常に薄いのだということでしょう。
HDMIやBlu-rayの規格策定の遅れに引きずられる形で、今年春の発売からおよそ半年ほど遅れてしまった発売日。
そしてゲーム機と捉えるにはあまりにも高機能なため跳ね上がってしまった価格。世間一般として、その両方がPS3に対しての大きなマイナスイメージになってしまったのは確実です。
つまり
「誰が、ゲーム機に6万円も出すのか」
「誰が、普及するかもわからないBlu-rayプレイヤーを買うのか」
「誰が、コンセプトもよくわからない家電を買うのか」
という疑問ばかりが先にたち、デバイスとしての魅力がいまだアピールされきっていないという事実があるのです。
ここで思い出すのは、今や7年も前の話になってしまったPS2発売時期のことです。
PS2の発売前と同じ部分、違う部分
これがプレステ2だ!―SCE久多良木健氏インタビュー―上記のインタビューでの久夛良木社長のコメントは、実はPS3の全体像を予想するのに非常に役立ちます。
PS2発売のときに、ある程度はPS3までのロードマップが出来ていたのではないだろうかと思われる節もあり、逆に当時には想定していなかった進化を遂げたと思われる部分もあるのです。
「たとえば文学だったら、まず最初の1行から世界観を作るという作業は難しいですよね。世界観というものを作って、そこに仮想的なキャラクタを置いて、自分の構成したいストーリーを作るじゃないですか。本なら本のストーリーラインがあるし、映画なら映画のストーリーラインがある。われわれはコンピュータ・エンタータインメントをそこまでいけるようなメディアにしたい」
「他のメーカーさんはゲームの定義を自分で狭めちゃってるんじゃないかということ。任天堂さんもそうなんだけど、自分で狭めてそこから出ていかないんだよ。いつまでたってもピカチュウ。だからぼくはコンピュータ・エンターテインメントと言ってる」
この頃からPSでできることをコンピュータ・エンターテインメントと呼んでいたことがわかります。
しかしながら任天堂はニンテンドーDSあたりからハードメーカーとしてかなりの脱皮を見せてくれた気もするのですが。
「間違っても家電じゃない。間違ってもPS2にOSを載せてパソコンにしようなんて思わない」
こればかりは勝手が違うのでしょうか。PS3は純粋なゲーム機と呼べるアーキテクチャーではないように思います。
「PS1を出したとき、スーファミがビックカメラで1万2800円ぐらいだった。PS1をやるとき、3DOの二の舞になるからやめておけとか言われた。でも3DOは7万円以上したけど、高いから売れなかったんじゃなくて、高いだけの価値がなかったんだよね」
「PS2が出たときに最初の100万人がいくらで買うかという問題、それと5年間でどれだけ値段を下げるかというぼくらの側の強い意思がある」
価格はPS2の時も同様に問題になりました。
さて、PS2の発売時よりさらに1万5千円程度も高価なPS3、これについてもPS2の方程式が生きるのでしょうか?
未だ「新しいプレイステーション」は期待感を抱かせてくれるのだろうか
発売前、普及に懐疑的な意見が多い中、恐るべき速度で普及していったPS2。その当時はDVDというメディアも最先端の映像技術も不要と思われていたはずでした。今回のケースを同様に考えるのは無理があるでしょう。HD DVD、Xbox360、Wii。PS3の狙うパイはそれまでより大きく、狙っている手も非常に多いのです。
しかしながらPS2を購入したときはどんな動機だったでしょうか?
「DVDが観られるから」「ゲームのクオリティーが上がったから」という理由で購入した人もいるかもしれません。
が、ひょっとしたら「なんだかすごそう」「ソニーのゲーム機だから」「プレイステーションの新機種だから」という漠然とした期待感だけで購入した人のほうがより多数なのではないでしょうか。
消費者が要求しているのは、価格や機能より、漠然としていても「期待感」なのではないでしょうか。これから発売に向けてどれだけの期待感を抱かせてくれるか、夢を見させてくれるのか。
それこそが今、真にPS3に要求されるものなのかも知れません。