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「ジョシュ君のこと」番外編:「シュルトK-1戴冠に思う“ウサギとカメ”の構図」(2)(4ページ目)

プロ10年目にしてついにK-1GP制覇を成し遂げた格闘技界の放浪者セーム・シュルト。かつてそのセームを踏み台にスターダムにのし上がったジョシュ・バーネットは低迷中。対照的な二人の交錯の構図。

執筆者:井田 英登

この王座剥奪劇には、UFCおよびダナ社長が、政治的に“アンコントローラブル(扱いにくい)”なジョシュを排除したという見方もあった。

現にダナ政権では、かつてUFCを永久追放的に排除されていたランディ・クートゥアが復帰したのを始め、一時は完全離脱が言われ来春復活が決まったWFAと契約したはずのティトや、K-1参戦を巡って王座剥奪~訴訟騒ぎにまで発展したBJペンらも復帰するなど、選手との協調路線が強い。また、ジョシュと同様にドーピングチェックに引っかかって>王座返上/四ヶ月の出場停止処分となったティム・シルビアでさえ、薬物使用を認めて謝罪したため、再びオクタゴンで闘う事を許された。だが、そんな温情路線のダナから、「彼とは永遠に話し合う気はない」と言下に存在を否定されてしまっているのがジョシュなのである。

なまじそんな事例を知っていたこともあって、ジョシュの排除の背景には単に薬物使用だけではなく、金銭絡みの暗闘や政治的な駆け引きもあるだろうという憶測が働いた。(日本での就職活動中も、ジョシュはしばしばその鼻っ柱の強さ、自信過多な部分を覗かせ、それでオファーを取り逃がすという事があったからだ。)そんな様々な情報や思惑が、僕の中のジョシュ擁護論に拍車を掛けていた。

だが、8月31日に両国国技館で、ジョシュの久しぶりのMMAマッチを見た、僕の中には大きな疑念が沸き上がって来たのである。試合内容はもちろんクリーンなリアルファイトであったし、両者が死力を尽くして闘ったことには、なんの疑いも無い。

だが、リングの上のジョシュは、やはり僕がUFCで見て来た彼とは何かが違っていた。

まず腹のたるみが出て来ていた事が、その最初のとっかかりであった。プロレスラーとしての“仕事”をこなす上で、相手のワザを“受け”ねばならない事は、プロレスに疎い僕でも知っていた。だからプロレスラーは打たれ強くあるために、わざと筋肉ではなく皮下脂肪を増やす。

もちろんそれで納得できないほど極端なゆるみではなかったが、まず直感的に“アレ?”っと思ったその違和感は、その後入道雲のようにむくむくと膨れ上がって行った。

何より違和感が募ったのは、彼のファイトスタイルの変化に、であった。UFCでのジョシュは、とにかくアタッカータイプで、一本かKOを狙って行くアグレッシブな闘い方が売りであったのだが、両国のリングの上でのジョシュは、明らかにオフェンシブで、体重の軽い近藤に攻めさせておいて、それを抱きつきで潰してしまう、妙に鈍重なファイトスタイルに変わっていたのである。もちろん捕まえてしまってからの派手なバックドロップなどを見せて、客席を沸かしはしていたが、本来の彼なら、近藤の攻撃を受けるより、一気に叩き潰しに行ったのではないだろうか。

アントニオ猪木の提唱する「風車の理論」(プロレスラーとして、相手にワザを出させておいて、受け切った末に、相手の攻撃力を利用して切り返す)という哲学を真に受けたと言えば、聞こえは良いかもしれないが、結局それによって実現している試合は、スピード感のない凡庸なものになっているのだから、ちょっと弁護したくてもできないではないか。

またロープ際やコーナーに近藤を追い込んでから、腕の差し合いをやるのだが、明らかに力をセーブして休んでいるように見える局面がいくつもあった。スタミナ切れも起こしていたのかもしれない。

マウントを取っても、かつてのクートゥア戦で見せた、あのスーパーラッシュはついぞ披露されなかった。どっしり腰を落として「やっと一休みできるわ」みたいな妙な間が空き、それからようやく鈍いパウンドが始まるのである。見ていて全然気分が高揚しない試合だった。シュルト戦での高度なテクニックも無ければ、ヒーゾ戦やクートゥア戦でのガッツは、もう今の彼にはどこからも感じられなかった。

「これが本当に君のやりたかった試合なのか?」

シャッター押しながら、僕はファインダーの中の“新日本プロレスのバーネット選手”に問いかけていた。

【PART3】へ続く
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