「1点を取りに行く野球」の誤解
打順の件よりも頭が痛いのは、「1点を取りに行く野球」の誤解だ。今回のアテネでの日本代表チーム、良くも悪くも高校野球的な一戦必勝ムードを感じたが、その代表的なものがバントの多用・誤用である。確かに転がす打球が有効な球場ではあったし、結果もある程度伴ってはいたが、「確実に点を取る=バントでランナーを進める」という選択肢しなかったのか。必ずしも得意でないバッターにバントのサインを出すことやアウトを一つ渡すリスク、またどのカウントで出すかなどの方法論なども、全く確立していなかったように見えた。高校野球の監督で普通ぐらいのレベルであって、とても全日本監督のそれではない。思えば、イタリア・パルマでの事前練習あたりの報道から、この点に疑問を持つべきだったろう。練習試合で中村がバントを決めたことが大きく報道されたのだ。練習試合で試すこと自体を否定はしないが、これらによって妙に「1点=バント」の刷り込みが生じたという気がしてならない。
不可思議なバントのサインで一番象徴的だったのは、3位決定戦のカナダ戦だ。7-2とリードした8回表、先頭の木村が二塁打でノーアウト2塁。ここで9番の藤本が送りバントで1アウト3塁。そして、続く1番福留にスクイズのサインである。結果はどうなったかと言えば、まさかスクイズのサインが出るとは思わなかった福留がサインを見落とし、強攻してセンター前にタイムリー。その後も打線が繋がり、3点を加えた。
5点差ではあったが、7-0から2点取られた状態で、次の1点を欲しかったことはわかる。ノーアウト2塁で9番に送りバントというのも百歩譲ろう。しかし、その後のスクイズだ。仮にスクイズを成功させたところで8-2の2アウトランナーなしになり、流れはそこで完全に断ち切られる。また、スクイズが成功するという保証もない。もしスクイズを外された場合、先頭バッターの2塁打が無価値になる上、下手をすれば5点差がセーフティリードでなくなるような変な流れに突入しかねないというリスクを理解していない。少し追い上げられたとは言え、5点のリードがあった。こういう時こそ、変な波を起こさない方が得策なのだ。
このスクイズのサインの裏には、1点を取れなかった前日のオーストラリア戦の反動があったような気がしてならない。中畑は明らかにうろたえているのである。この点だけを取りあげても、采配の方法論が確立していたとは言い難いのだ。
「試合の流れ」を読めていない
打順やバントの件よりも増して深刻だったのは、中畑監督が野球のゲームの流れ、ゲームのアヤというものを全く読めていないことだ。守備側の流れは普通だったし、投手交代も特に悪くはない(投手起用・投手交代はおおむね大野コーチの仕事だったが)。投手交代が半テンポ遅いかな、ぐらいの試合はあったが1テンポまではいかった。投手の調子が悪く、負けた試合もあったが、特に投手交代に関して咎めるには値しないだろう。問題は、攻撃を含めた全体の流れである。端的に現れていたのが、準決勝のオーストラリア戦だ。ゲームの流れが投手戦で淡々と進行する中、中畑は何の策も取らなかった。代打起用はおろか、間合いを取ること、揺さぶりをかけることなど皆目なかったに等しい。また、オーストラリアの投手を打てない展開であることも見抜けなかった。全てを選手に任せきりにした結果が、先発松坂を見殺しにした0-1の完封負けなのである。
参考:決勝トーナメント戦評で詳細に述べる予定。
そもそも、ゲーム方式を理解していないのでは?
中畑監督は、予選リーグを1位で通過すれば、決勝トーナメント4位チームとの対戦以外に何らかの特典があると考えていた、との一部報道がある。(ソフトボールのページシステムのようなものだろうか? ソフトボールは予選1・2位通過ならば自動的に銅メダル以上が確定)参考:夢散長嶋ジャパン金縛り…気合空回り豪に0-1(ZAKZAK)
上記記事の信憑性はわからないが、少なくとも中畑監督が予選リーグ7試合+決勝トーナメント2試合の合計9試合を全部勝つつもりでいたのは間違いないようだ。これには世論的な問題もあっただろう。しかし、金メダルの取り方という意味では、あまりに短絡的に過ぎる。予選リーグでどのような戦い方(星勘定)をし、どう戦力温存や力の配分をするかをあまり考慮に入れていなかったようだ。
結果的に言えば、予選リーグ4勝3敗のオーストラリアまでが通過したのだ。野球において戦力が拮抗している場合、9連勝というのはかなり困難である。「捨てゲームを作る」「力を温存する」「色々なケースを試す」など、全てを予選リーグ中に実現することは難しいのだが、投手起用以外でそれらは全く実行されていない。また中畑監督は、星取りと準決勝のシミュレーションすら「何もしない」ことを選択したようで、ただひたすら来るべきキューバとの決勝戦を待っていたように思えるのだ。そして、その決勝戦は来なかった。
さて、ここで中畑の監督評を終えることにする。次ページは「アテネ監督は誰がよかったか」→