北森鴻はどんな作家なのか
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舞台に復帰した女形の主治医が惨殺され、河鍋狂斎の幽霊画が新たな犠牲者を生む。歌舞伎界の闇を描く北森鴻のデビュー作。 |
北森鴻は1961年山口県生まれ。駒澤大学文学部を卒業後、編集プロダクションに勤めながら創作を続け、1993年に「仮面の遺書」が公募アンソロジー『本格推理1』に掲載される。1994年に「狂斎幽霊画考」が第33回オール讀物推理小説新人賞の最終候補作となり、翌年に(同作を長編にリライトした)
『狂乱廿四孝』で第6回鮎川哲也賞を受賞。1999年には
『花の下にて春死なむ』で第52回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を獲得した。北森の著作はバリエーションに富んでおり、多彩な舞台やテーマを扱っているが、その全貌を説明するにはいささかスペースが足りない。そこで今回はシリーズ作品だけを――最初の単行本が刊行された順に――見ていくことにしよう。
骨董商のヒロインが活躍する人気シリーズ
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店舗を持たない骨董商の宇佐見陶子は、精巧な贋作にまつわる難事件に巻き込まれていく。〈冬狐堂〉シリーズの記念すべき第1作。 |
店舗を持たない骨董商(=旗師)"冬狐堂"の宇佐見陶子は、北森が最初に創造したシリーズキャラクターである。同業者の"橘董堂"に唐様切子紺碧碗の贋作を掴まされた宇佐見は、プライドを賭けて"目利き殺し"を仕返そうとするが、その矢先に橘董堂の外商が殺されてしまう――というのが第1作
『狐罠』のストーリー。続編にあたる
『狐闇』で銅鏡をめぐる陰謀に巻き込まれた宇佐見は、やがて
『緋友禅』『瑠璃の契り』(いずれも短編集)において"人々の心の謎"に対峙していく。骨董業界ならではのスリル、洒脱な謎解き、強いドラマ性などを備えた〈冬狐堂〉シリーズには、物語作家・北森鴻の本領が詰め込まれているのだ。
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