とてつもない憑依力
<DATA>タイトル:『巡礼』出版社:新潮社著者:橋本治価格:1,470円(税込) |
小説家としては、まず憑依力がすごい。デビュー作『桃尻娘』では女子高生、短編集『愛の矢車草』の表題作では父親になってしまった小学六年生、「ふらんだーすの犬」(柴田連三郎賞受賞作『蝶のゆくえ』所収)では子供を虐待するヤンママ……年齢も性別も家庭環境も知能も自分とはかけ離れた人たちの思考パターンをなぞることができるのだから。それはもう、恐ろしいほど正確に。自分が女子高生やヤンママじゃなくても、きっと彼女たちはこうなんだ、と思わせるのだ。
『巡礼』では、ある住宅街で〈ゴミ屋敷〉騒動が起こった2004年を起点に、問題の家の来歴が語られる。ところが、作者はまっすぐゴミ屋敷に入らない。第一章では近所の主婦たちの内面に潜っていく。
例えば、自分にとってゴミ屋敷は〈近くに存在する遠い災難〉でしかないのに、テレビのレポーターがやってくると〈もっと役に立つことを言おう〉とする矢嶋富子。