未来を予言する本から、過去を振り返る本へ
<DATA>タイトル:『大不況には本を読む』出版社:中央公論新社著者:橋本治価格:777円(税込) |
なぜなら、2億ドルの黒字を出したロサンゼルス五輪が象徴するように、西側諸国では、国家よりも民間企業の力が強くなっていたから。到来したのは管理社会ではなく、会社社会だったのです。60年代に飛躍的な経済成長を遂げて、70年代の大不況も乗り越えた日本は、“一億総中流社会”でもある。衣食足りて、心の豊かさを求めるようになっていました。そんな時代に生まれた架空のベストセラー小説をめぐる出来事が、『1Q84』の一つの軸になっています。
ベストセラーといえば、つい最近出版された『大不況には本を読む』を読んで、「ほうほう」と感銘を受けたことがあります。1973年、オイルショックの年に爆発的に売れたのが『日本沈没』と『ノストラダムスの大予言』で、どちらも「未来」を扱った本だったという話。世界が終わる不安を感じながらも、当時の人々の意識はまだ未来に向かっていたのです。
それから36年がたち、ふたたび世界が大不況に陥っている2009年、日本でベストセラーになったのは「過去」を扱った本。なんだか考えさせられるじゃありませんか。
次回は、村上春樹の過去の作品を取り上げつつ、『1Q84』を読み進めていく予定です。のんびりしたレビューですが、よろしければお付き合いください。
・寄り道しながら『1Q84』を読む【2】