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寄り道しながら『1Q84』を読む【1】(3ページ目)

話題沸騰中の村上春樹『1Q84』。ちょっとご紹介が遅くなりましたが、あちこち寄り道しながら、じっくり読みたいと思います。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

話題の本ガイド

未来を予言する本から、過去を振り返る本へ

大不況には本を読む (中公新書ラクレ)
<DATA>タイトル:『大不況には本を読む』出版社:中央公論新社著者:橋本治価格:777円(税込)
「国家は個人の上に立つ強大なる権力構造である」という認識は、人類の文明の歴史と同じくらいに古い。だから、(六〇年代の終わりには※引用者註)「自分は自由ではない」とある個人が思った時、その“主犯”は、たやすく「国家権力」というものになりえたのだが、しかし、一九八四年の日本で、それはもう通用しなくなっていた。

なぜなら、2億ドルの黒字を出したロサンゼルス五輪が象徴するように、西側諸国では、国家よりも民間企業の力が強くなっていたから。到来したのは管理社会ではなく、会社社会だったのです。60年代に飛躍的な経済成長を遂げて、70年代の大不況も乗り越えた日本は、“一億総中流社会”でもある。衣食足りて、心の豊かさを求めるようになっていました。そんな時代に生まれた架空のベストセラー小説をめぐる出来事が、『1Q84』の一つの軸になっています。

ベストセラーといえば、つい最近出版された『大不況には本を読む』を読んで、「ほうほう」と感銘を受けたことがあります。1973年、オイルショックの年に爆発的に売れたのが『日本沈没』と『ノストラダムスの大予言』で、どちらも「未来」を扱った本だったという話。世界が終わる不安を感じながらも、当時の人々の意識はまだ未来に向かっていたのです。

それから36年がたち、ふたたび世界が大不況に陥っている2009年、日本でベストセラーになったのは「過去」を扱った本。なんだか考えさせられるじゃありませんか。

次回は、村上春樹の過去の作品を取り上げつつ、『1Q84』を読み進めていく予定です。のんびりしたレビューですが、よろしければお付き合いください。

寄り道しながら『1Q84』を読む【2】


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