津村記久子『アレグリアとは仕事できない』
<DATA>タイトル:『アレグリアとは仕事はできない』出版社:筑摩書房著者:津村記久子価格:1,470円(税込) |
冒頭、ミノベがアレグリアを罵倒しまくるシーンで、思わず笑ってしまう。高性能の最新機器というふれこみで導入されたアレグリアだが、1分動いて2分ウォームアップする怠け者。おまけに急いでいるときに限ってトラブルを起こしたり、メンテナンス業者を呼んだ途端に動きだしたりする。あるある、そういう機械、罵りたくもなるよね、という感じ。ミノベの言い回しがSMっぽいのも面白い。
コピー機とOLの闘いを描いたユーモア小説なのかなとニヤニヤしながら読んでいくと、話は予想外の方向へ転がっていく。コピー機の不調、というどこの会社でも起きている現象が、微妙なバランスで成り立っている人間関係を崩壊させるのだ。ミノベと同じ仕事をしているトチノ先輩の2人は、まさにタイトル通りの状況に追い詰められていく。
ちなみに調べてみたら、アレグリア(alegria)はスペイン語で“喜び”という意味らしい。なんという皮肉だろう。喜びと名づけられた機械が、それまでは漠然としていた働く人の違和感や不安に、形を与えてしまうのだから。
ただ、それだけで終わらないのが、この小説の好感が持てるところ。しんどい日常のなかで、喜びを感じる一瞬も見事にすくいとっているからだ。例えば終盤のトチノ先輩のセリフ(P97)には胸を衝かれた。“コピーとり”からこんなに魅力的な言葉が生まれるなんて、という驚きをぜひ味わってほしい。
次ページでは、同時収録の「地下鉄の叙事詩」をご紹介。