戦後日本を代表する詩人が登場!ねじめ正一『荒地の恋』
<DATA>タイトル:『荒地の恋』出版社:文藝春秋著者:ねじめ正一価格:1,890円(税込) |
本書の主人公は北村太郎。第二次大戦後に活躍した「荒地派」と呼ばれる詩人のひとりです。彼には中学時代以来の親友がいました。ダンディで無頼な詩人のイメージで、詩を読まない大衆の人気まで集めている田村隆一。
「荒地派」のなかでも華やかな存在である田村と違い、53歳の北村は出した詩集も2冊だけ。大手新聞社に勤め、妻と2人の子供と一戸建の家という絵に描いたような幸福な家庭を手に入れながら、どこか空虚な思いを抱えていました。そんなとき、彼は恋に落ちたのです。田村の妻、明子と。
北村は恋のせいで家も職も失ってから、どんどん詩を書き、評価されるようになります。皮肉ですね。何かに追いつめられないと、生きた言葉は出てこないのかもしれません。一時は嫉妬のあまり錯乱したけれど数年後すっかり落ち着いて「パパ、帰ってきてくださいな」という妻に、北村が返す一言が印象に残りました。
「ママ」 長い沈黙のあと、治子に向かって言った声は自分でも驚くほど優しかった。「人の心は変わるんだよ」
従順な妻が“性の自由”に目覚めたら? 女性作家がパートナーと共同で書いた小説は次ページに。