~dinner~石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』
オムレツが無性に食べたくなること間違いなし!50年前のパリ暮らしのディテールも楽しい。 |
オムレツは強い火でつくらなくてはいけない。熟したバタにそそがれた卵は、強い火で底のほうからどんどん焼けてくる。それをフォークで手ばやく中央にむけて、前後左右にまぜ、やわらかい卵のヒダを作り、なま卵の色がなくなって全体がうすい黄色の半熟になったところで、片面をくるりとかえして、火を消し、余熱でもう一度ひっくりかえして反面を焼いて形をととのえたら出来上がる。
と、作り方のコツは書いてあるが、きっとこの通りにしても、想像したような味にはならないだろう。このオムレツに使われているのは、バターじゃなくてバタ。なんだか自分が知っているあの乳製品とは別物のような気がする。著者がフランスに渡ったのは1952年。距離と時間の隔たりが、味に対する想像を膨らませる。
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タイトル:『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』
出版社:暮らしの手帖社
著者:石井好子
価格:1,050 円(税込)
いま、わざわざ海外に行かなくても、日本では世界各国の料理が食べられる。でも「旅行者の朝食」も「白いカレー・ライス弁当」も「パリの空の下のオムレツ」も食べられない。それは、著者の記憶の中にしかないものだからだ。決して同じものは食べられないからこそ、焦がれてしまう。
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