夏休みは名作をあらためて読むチャンス! 難病+純愛+おしゃれ。今読んでもちっとも古くない『うたかたの日々』を紹介。

ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』

うたかたの日々
ボリス・ヴィアンの代表作。青年コランと肺に睡蓮の花が咲く奇病に冒されたクロエの哀切で美しいラブストーリー
病院で診察や検査をするときは、初対面の人にハダカを見せなきゃいけない。入院すれば風呂には入れないし、手術の前には浣腸や剃毛が待っている。病気をすると自分の体の汚い部分を直視することになる。恥ずかしい思いもする。だから結核とか白血病とか癌とか、本当にある病気をきれいに描いた物語は、どうしても嘘くささから逃れられない。

どうせ嘘なら徹底的に。リアリティなんて糞食らえとばかりに、肺に睡蓮が生えるという、世にも美しい病を創造した人がいる。1940年代後半から50年代初頭にかけて小説や詩を発表し、39歳の若さで亡くなったフランスの作家ボリス・ヴィアンだ。代表作『うたかたの日々』は、病気に引き裂かれる若い男女を描いた恋愛小説。ヴィアンはこの長篇に「はじめに」と題した文章をつけている。人生で大切なことについて曰くきれいな女の子との恋愛ニューオリンズか、デューク・エリントンの音楽その他のものはみんな消えちまえばいい。なぜって、その他のものはみんな醜いからだ

醜いものは消えちまえ。そんな考え方は、この小説全体から感じられる。冒頭、主人公のコランが身だしなみをととのえるシーンが象徴的だ。彼は爪切りで瞼のはしを斜めに切って(!)目つきに神秘的な輝きを加え、小さなランプつきの拡大鏡で皮膚の様子を確かめる。

にきびが二、三、小鼻の脇にできていた。拡大鏡で見るとあんまり醜いので、急いでにきびは皮膚の下にもぐってしまい、満足したコランはランプを消した。

瞼を切っても血は出ない、拡大鏡で見ただけでにきびも消してしまう22歳の男。しかも、働かなくても生きていけるくらいの財産持ち。毎日することといったら、お洒落をしたり、曲を弾くとカクテルが出来るピアノを作ったり、友達を呼んでご馳走を食べることくらい。“恋をしたい”という望みも、デューク・エリントンの曲と同じ名前の美女クロエと出会った途端に叶える。もともと恵まれている上に、人生で大切なことを一度に手に入れるのだ。

幸せの絶頂だったが……『うたかたの日々』レビューの続きはこちら