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夫婦というホラーな関係『ああ正妻』

夫婦関係を描いただけなのに、もはやホラー? 姫野カオルコの結婚批評小説『ああ正妻』とホラー妻が出てくる本をピックアップ。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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夫婦関係を描いただけなのに、もはやホラー? 姫野カオルコの結婚批評小説『ああ正妻』とホラー妻が出てくる本をピックアップ。

ベタすぎる鬼嫁に戦慄!姫野カオルコ『ああ正妻』

ああ正妻
男性にとっては阿鼻叫喚(?)の結婚批評小説。冒頭はここで立ち読みできる。著者公式サイトに掲載されたコメントによれば、「事実度が非常に高い」とのこと。
事実は小説より奇なり、なんて言葉をよく聞くけれども、事実は小説よりもやっぱりベタなものだと思う。ベタすぎるという点で奇なるものかもしれない。

恋愛において見え見えな手管を使うひとも、意外にいるものなんである。例えば、この小説に登場する東雪穂。彼女は名門女子大学を卒業してすぐ、大手出版社にアルバイトとして入社。未来の夫候補と定めた独身の男性社員に、自分の水着写真をテレホンカード(!)にして配る。読者は「うわー、そんなことする同僚がいたら、確実に引く」と思うだろう。しかし大して引かれることもなく、彼女は見事に高給取りの夫を捕獲するのだ。

その夫とは、小早川正人。年収一千万以上稼ぐにも関わらず、小遣いは月一万円で、救世軍支給のスーツを着ている男。物語は彼の知り合いである作家・瓶野比織子(かめのひおるこ)の視点で描かれる。瓶野は小早川の結婚生活に驚愕。ベストセラー『負け犬の遠吠え』をモデルにした本を読み解き、社会学者と話をして、結婚に対する考察を深めるのだが……。

夫には我慢を強いるのに、自分は贅沢をする。雪穂は非常にベタな悪妻だ。そのベタな悪妻のどこが怖いのか。それは、雪穂の思考回路である。雪穂はいつでも「その代わり」という言葉で、自分の欲しいものを手に入れていく。でも小早川にとっては、全く等価交換ではないのだ。理屈が通じない。コミュニケーション不能。これは怖い。

そんな怖い妻に、小早川は復讐を試みる。その方法のしょぼさに爆笑しつつ、本当に何を考えているかわからなくて怖いのは夫の方かもしれないと思う。

<DATA>
タイトル:『ああ正妻』
出版社:集英社
著者:姫野カオルコ
価格:1,680円(税込)

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