意外な「素顔」も持つ芥川賞作家の最新作。静養骨董店を舞台に描く玄妙なる人間関係 『夕子ちゃんの近道』 ・長嶋有(著) ・価格:1575円(税込) |
■西洋骨董店を舞台に、玄妙な人間関係を紡いだ連作短編集。微炭酸の飲み物を飲んだような読後感、作品の中を時間がゆったりと流れ、一見・・・
『サイドカーに犬』で文学界新人賞を受賞しデビュー。『猛スピードで母は』が第126回芥川賞作家に、知る人ぞ知る筆名で、ゲームに関する著作も発表している著者の最新作。
西洋アンティークの店・フララコ屋の倉庫のような二階に住み着いた“僕”。店長の知り合いで初代居候、今は「買わない」常連で夫と長期別居中の瑞江さんと微妙に親しくなったり、こちらも店長の「元カノ」らしい相撲好きのフランス人女性と知り合ったり、隣に住む大家さんの孫娘で定時制高校に通う夕子ちゃんの「秘密」を共有することになったり・・・特別な事件があるわけではないけれど、何も起こらないわけではない、そんな日々。古びたモノに囲まれた不思議な空間を舞台に、淡々としていながらどこか危なげな、人々の人間関係を紡ぎ、独特の作品世界を現出する連作短編集。
児童文学のごときタイトル、レトロな設定から、古き佳き時代の匂いを漂わせた「癒し系」の作品を連想して、この本を手にとった方の予想もおそらく大きくは裏切らないだろう。一話一話に微炭酸性の飲み物を飲んだあとのような読後感があり、しかも、連作全編をとおして、ゆるやかに時間が流れていく。高校生である夕子ちゃんに「風景のよう」と形容される“僕”という主人公の「無名性」が、主張をしないとおいていかれる(と、多くの人が思いこんでいる)現実を生きている身にはけっこう心地いい。
・・なのだが、なんというか、この作品、読めば読むほど、微妙な違和感を覚えるのだ。単なる「癒し系」の作品とするには、妙な座りごこちの悪さ、極端に言うと、薄気味の悪さが、ほんとうにかすかにかすかに、だけど、確実に、全編の根底に流れているのである。
この違和感、居心地の悪さの正体は、いったい、何?