■人は人を根本的なところで救いうるのか――普遍的な問いかけ。それ自体を豊穣なる物語に
 時代小説の魅力は、なんといっても、登場人物の魅力にあると私は思う。
現代を舞台にしたものであれば「そんなヤツおらんやろぉ~」と突っ込みたくなるような「いい男」でも、時代小説ならすんなりと許せてしまう。
著者は、本作でその有利さを十二分に活用している。
もちろん、実力派の著者ゆえ、本作は、軽薄なキャラクター小説というところには留まっていない。
 
 本作の根底には、人が人を根本的なところから救うとはいかなることなのか、それとは逆に人が人を根本的なところから傷つける、すなわち命を奪うとはいかなることなのかというきわめて普遍的な問いかけがある。また、その問いかけに安易に答えを出すのではなく、「問う」ということ自体が芳醇な物語になっている。
 著者は、物語作家として、きわめてまっとうな存在である。だが、と同時に、きわめてミーハーでもある。でないと、「いい男」は書けない。
 著者の懐の大きさを示す作品でもあり、予定調和に収まりがちな時代小説を敬遠してきた人にこそ、物語に惑乱される醍醐味を味わっていただきたい。

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