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『窓の灯』(2ページ目)

第42回文藝賞受賞作。時代に取り残されたような街で暮らす私の日課は、向かいのアパートに引越してきた男の部屋を覗くこと・・・清潔感のある文体で独特の小説世界を紡いだ佳作。

執筆者:梅村 千恵

■後ろ暗さ、憧れに同居する軽蔑・・・一言では言い表せない感情を清潔感のある文体で丁寧に紡ぐ
 
 彼女は、他人の生活をあくまでも「見る」だけであって、そこに介入したいという意思はない。むしろ、他人は他人のままでいてほしいのである。臆病だとも言えるし、他者との積極的な関わりを求めないという意味では、孤独で後ろ向きだとも言える。少なくとも、あまり褒められた主人公ではないかもしれない。だけど、そういう気持ちって、なんとなくわかりませんか? 世間さまにおいては、積極的に他人とつながることを求められ、そうではないと「変わり者」のレッテルを貼られがちであるけれど、それはそれで是なのかもしれないけれど、私は個人的に、孤独を抱きしめて日々を送る主人公の方に共感する。

 覗き見というのは、確かに後ろ暗い行為であるし、行為の動機も後ろ暗い。誰の心の中にも、このような欲求があるとは思わないけれど、少なくとも人の心の中には光のあたる場所もあれば、影になる場所もある。その光と影の境目は、実はとても曖昧でつねに揺れ動き、簡単には言い表せない。
 主人公がミカド姉さんに寄せる感情もしかり。憧れであると同時に軽蔑であり、愛情であるとともに執着である。こういう簡単には言い表せないところを表現するのが、小説の強みではないかと思う。そういう意味では、この作品は、ちゃんと小説だという気がする。

 好みの差はあるだろうが、平明でありながら一種独特の切れと清潔感のある文体も個人的には好み。清潔感の時代に取り残されたような街の描写など、小説の中に現実とは違う時間と空気感を表現できる書き手でもあると思う。『平成マシンガンズ』の三並さんも同様だが、2作目、ぜひぜひ、頑張っていただきたい。

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