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『窓の灯』

第42回文藝賞受賞作。時代に取り残されたような街で暮らす私の日課は、向かいのアパートに引越してきた男の部屋を覗くこと・・・清潔感のある文体で独特の小説世界を紡いだ佳作。

執筆者:梅村 千恵


『窓の灯』
第42回文藝賞受賞作。他人の生活を覗き見する主人公の心象風景を清潔感のある文体で紡ぐ

『窓の灯』
・青山七恵(著)
・価格:1050円(税込)

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■他人の生活のシルエットを覗き見する女性を主人公にした文藝賞受賞作
 
 綿矢りさ以来、超若手の書き手を輩出する賞としてすっかりおなじみになった文藝賞。今年も、『平成マシンガンズ』で受賞した三並夏さんが十五歳という最年少記録を更新し、話題を読んだ。「恐るべき十代」の出現は出版界にとってもちろん明るいニュースだが、書き手の年齢ばかりにスポットがあたるのもどうなのかなぁ・・・ということで、今回は、『平成・・・』の影になって少々地味な存在である、もうひとつの受賞作『窓の灯り』を紹介することにした。
 
 大学を辞めてしまった「私」は、年上の女性、ミカド姉さんが経営する喫茶店で住み込みで働くことになる。「私」の部屋のそばにある姉さんの部屋には、入れ替わり立ち替わり男が訪れる。そんな彼女を「女の人」の見本として眺めて過ごす「私」に、新たな日課ができた。
 それは、向かいのアパートに引越してきた男の部屋を覗くこと。窓辺にゆれるレースのカーテン越しに見えるはっきりしない横顔、体の輪郭。ときおり訪れる恋人らしき女性とのはじめてのキスを目撃したいと思う私。やがて、私は、見知らぬ人の輪郭を求めて、夜の街を徘徊するようになる。ちょっと奇妙だが穏やかな日々を過ごす私だが、ミカド姉さんにはある変化が訪れた・・・

 「覗き見」という後ろ暗い行為に魅かれる主人公の複雑な感情を描いた同作、個人的には、佳作だと思う。ただ、主人公は、覗き見常習犯、それも女性という設定から、異常心理を描いた作品だと思って手にとられる方にはかなり物足りないだろう。そう、この主人公の心理、少なくとも私にとっては、「分かる」のである。
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