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『ハルカ・エイティ』

戦争の足音が聞こえてくる時代に女学生時代をすごしたハルカ。戦中、戦後を、妻として嫁として母として、そして女性として懸命に生きた女性の一代記。

執筆者:梅村 千恵


『ハルカ・エイティ』
「うちはなんもできひん凡人やけど」・・・激動の時代を、溌剌と生きた一人の女性の姿を瑞々しい筆致で描く 

『ハルカ・エイティ』
・姫野カオルコ(著)
・価格:1995円(税込)

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■大正生まれの元祖モダンガール「うちはなんもできひん凡人やけど」・・・激動の時代を「きちんと」生きた女の一代記

 独自の視点と文体で女性の愛と性を描き続ける著者初の「モデル小説」。「遠巻きに眺めているだけで、なぜか励まされる」(あとがきより)伯母をモデルにした長編である。

 物語は、東京で暮らす女性作家のもとに八十歳の伯母、ハルカが大阪から訪ねてくる章から幕を開ける。大正生まれの元祖モダンガール、「ハルカ・エイティー」は、一流ホテルのティーラウンジでひとりでコーヒーを飲むシーンがさまになる、そんな女性。六十歳以上になると、化粧のノリを少しでもよく見せるために、直射日光のあたる席は避けよ、女性は、いつまでも“手を離したらあかん”とのたまい、実践する女性(エライ!ベンキョウになります!)。颯爽かつ溌剌、東京で知り合った30代のカメラマンの青年のハートまでがっつりと射止めてしまう。「どんな人生を送ってきたら、こんなバアさんになれるの!?」と、思わせたところで、舞台は、一転、彼女の少女時代へ。大正9年、滋賀県の鄙村で教育者の家庭の長女として生を享けたハルカ。戦争の足音が少しずつ近づいてくる時代、「校門と塀に守られた」女学校時代が瑞々しい筆致で描写される。日中戦争が勃発した年に女学校を卒業したハルカは、教師に。程なく見合い結婚をして、軍人の妻に。親友である由里子が、自由主義を標榜する帝大教授の父の封建主義ぶりに反発し、自立の道を探ったり、子爵令嬢で牛車のような速度でおっとりとしゃべる日向子が、映画俳優と音だけ同姓同名の男性と恋に堕ち駆け落ちするのを見ながら、「うちはなんもできひん凡人やけど、主役を応援するのは脇役の面目躍如ではないか」と考えるハルカ。戦地にいる夫を待ちながら、心優しい義母と、彼女を「大東亜一の嫁」と言い切る義父に心酔し「この人によろんでもらえる嫁になろ」と思うハルカ。
 日米開戦、米軍の本土空襲・・・布団の中で空襲警報を聞きながら「寒いなあ。布団から出るのいやややなぁ。防空壕まで行くの、もう寒いもん。どうせみんないっしょに死ぬのや」と思うハルカ。彼女はやがて、戦争が終わり復員してきた大介との間に娘が生まれ、母となるのだった。

 少女から嫁になり、女を抜かして、母になったハルカだが、抜かした「女」の部分は、やがて追いかけてくる。夫の事業が軌道に乗らないことから、小学校付属の幼稚園の園長として働き始めたハルカは、戦後、「美人」の基準が変わり少女の頃の「ラブレターの渡し役」から、「ものすごべっぴん」に。男たちの注目を集め、やがて・・・

 第二次世界大戦下の市井の人々の「戦争」「国家」の捉え方、戦後の世相が、平成に生きる著者の視点が挿入され、ハルカという女性があたかも同時代を生きる女性のように生き生きと活写される。
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