■『サウスポー・キラー』がD・フランシスなら、こちらは、エルロイ!? カタストロフに向かって疾走する正統派ノワールノベル
いわゆる「正義」「良心」をそのまま体現するような人物は誰ひとりとして登場せず、なおかつ登場人物は、徹底的に痛めつけられ、破滅への道を突っ走っていく。
同時に大賞を受賞した『サウスポー・キラー』がハードボイルドなら、こちらは、ノワール。審査員の大森望氏によると、「ディック・フランシス対ジェームズ・エルロイの代理戦争という声もあった」そうである。
ディック・フランシスよりエルロイが好き、だというわけではないが、個人的に、どちらのテイストが好みかと問われると、この作品に軍配が上がる。近そうに見えて遠いプロスポーツ界の暗部を描いた『サウスポー・キラー』より、遠そうに見えて、実は、身近にあるかもしれない、この作品の「暗黒」のほうにリアリティーを感じる人は、多数派ではないにしろ、けっして少なくないはずだ。
■不在なる少女が、その不在ゆえに、圧倒的な存在感を放つ。新人離れした巧緻な組み立てに脱帽!
また、構成という点から言っても、本作は、本好きを喜ばせる作品だとも言えるだろう。
この物語は、藤島という空虚を抱えた男の物語であり、加奈子という空虚を抱えた少女の物語であり、その空虚に飲み込まれていく尚人という少年の物語でもある。
藤島の物語と尚人の物語が交錯する構成になっているが、二つの物語を繋ぐ、あるいは、二つの物語の上位に冷然と存在するのが、加奈子の物語である。加奈子という少女は、その「不在」ゆえに、圧倒的な存在感を放つ。被害者であり、主人公たちの「対象」に過ぎないはずの彼女の姿が、読み進むにつれ、どんどん大きくなっていくのだ。
物語のラストで明らかにされる加奈子の「不在」の真相も、ミステリ・マニアにとってそうであるとは限らないが、少なくとも、私は、意外だった。
審査員の間には、「ノワールとしての深みには欠ける」「万人受けするものでない」と辛口の評価もあったようだが、彼らのほとんどが認めた文章力の確かさは、まさに「即戦力」。
『サウスポー・キラー』も同様だが、「このミス!大賞」、今回も、継続的に収穫があがりそうな「青田」を見出したと言っていいだろう。
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