瑞々しい描写とリアリティーで人気の著者。等身大の主人公が、あなたの心の友になってくれるかも。 |
『天国はまだ遠く』
この本を買いたい!
■デキないワーキング・ウーマン。主人公の設定に「うーん、わかる」・・・
『卵の緒』で坊ちゃん文学賞を受賞、『図書館の神様』でブレイクした瀬尾まいこの最新作。「ピュアで瑞々しい」と評価される瀬尾作品だが、その魅力は、それだけではないことに気づかされる一作である。
まず、主人公の設定が、おそらく、働く女性の多くにとって、大いに共感できるはずだ。
本作の主人公は、保険の勧誘の仕事をしている千鶴。いわゆるワーキングウーマンだが、キャリア志向などではまったくない。就職先がなくて、「愛想がいい」という世間のきわめて曖昧な評価だけを頼りに、営業職についた(うーん、わかるなぁ~。私も個人的にそれに近かったから)女性だ。だから、というわけでもないだろうが、彼女、営業職としては、売れない。ノルマが達成できない(再び、うーん、わかるなぁ~。私も個人的にそれに近かったから)。で、悩む。職場でキツく詰められているわけでも、肩タタキにあっているわけでもなさそうなのだが、みんなが自分のことを責めているような気がするわけだ。仕事がダメなら、とりあえず、プライベートの充実を図ればいいじゃないか、という声もあろうが、彼女は、それもできないタイプ。心身を壊し、「職場に居場所がない」=「この世に居場所がない」になってしまって、自殺を決意する。自殺の場所として彼女が選んだのは、日本海側の小さな町(日本海=暗い・・・この後に及んで、ドラマティックな効果を狙い、しかも、ミーハーな選択・・・。うーん、でも、わかるなぁ~)。人里離れた山村にたどりついた千鶴は、その村にある民宿で睡眠薬を飲む。だが、目覚めてみると、気分は爽快!ここが「天国」!? いやいや、違います。だって・・・
■ゆったりした時間の中で命の輝きを知る。瑞々しい描写は、著者の真骨頂!
そう、民宿の主である青年・田村が朝ごはんを作って待っていたのだ。まあ、有体にいうと、自殺未遂をやらかした千鶴は、しばらくその村で過ごすことになる。この上なく大らかな田村のガイダンスの甲斐もあり、彼女は、村での暮らしに馴染んでいく。ゆったりと流れる時間に身を置くことで、千鶴の心は少しずつ癒されていく・・・。
この主人公の村での日々の描写が実にいい。「鶏の首のところについている赤いビロビロが嫌い」だった千鶴は、鶏を絞める現場に立会い、「こうやって死んだ鶏と比べたら、生きとった鶏の鶏冠くらい、なんちゃないやろ?」と田村に言われ、「赤いビロビロにも命が流れていたんだなぁ」と思う千鶴。シンプルな暮らしの中で、命の輝きに触れて自分の内にある「生きる力」に気づいていく様の描写は、まさに、瑞々しいという言葉がふさわしい。
だが、最初に書いたように、この作品の魅力はそれだけではない。