■新鮮な主人公、リアリティーのある女性・・・ハードボイルド小説の「限界」を超える魅力
些細な過ちが自身と仲間の命運を絶つことになる復讐劇のさなかに、眼をつけた女をナンパする男。暗い過去を背負いながら、それに「ケリをつける」と決めたら、一切逡巡せず、笑いながら命を投げ出す男。
村上龍氏が推薦文で彼のことを「熱帯の密林からエネルギーを浴びて成長した少年」と表現していたが、100%日本人の人物に、こういう個性を与えるのは、やはり難しいだろう。いわゆる一般的な日本人のそれからは対極にある心性を有した人物であるのは間違い。
彼以外の人物も陰影深く造形されているが、特に、女性がいい。復讐劇の中で、重要な役割を担う(いつのまにか担わされてしまう、というべきか)女子アナ上がりの報道記者である恵子は、プライドと上昇志向が強くて、社会の一線でおもいっきり肩に力を入れていて生きている女だ。実は、脆く狡猾なところもあって、それでいて、直情的で破滅的なほどのエネルギーを秘めている。
うんうん、こういうタイプ、いるかもしれない・・・同性からみても、かなり共感できるのがいい。また、彼女とケイのやりとりやその交流の行方には、日本語の「愛憎」というじめじめしたところが一切なく、オスとメスとのような素朴なエネルギーとあっけからんとしたムードがある。
私見であるが、これは、かなりデカい「買いポイント」だ。本作は、大藪春彦賞を受賞するくらいだから、ハードボイルド小説としても出来がいい。私を含め、女性陣が、いわゆる「ハードボイルド小説」に対して抱く不満は、女性の描き方についてだろう。そう、「男が見たら、イイ女」像を抜け切れていないことが多く、思わず「こんな都合のいい女、いるわけ?」と思わず突っ込みたくなってしまうのだ。まあ、男性に愛されてナンボのジャンルだから、しかたあるまい・・・とほぼあきらめていたのだが、この作品は、それをしっかり超えているのである。
社会派小説であり、重層的な人間ドラマであり、ハードボイルドであり、サスペンスであり、恋愛小説と、とどの側面から見ても、高得点をマークする作品、どんなタイプの読者に推薦しても、推薦しがいのある作品でもある。
ビジュアル化してもよさそうだし、エンターテインメント小説とはこうじゃなくちゃね。
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