■「社会性」の裏にある安い現実。スプラッタなノリで独自の「リアル」
この作品では、遺物捏造事件を起こした考古学者が重要な役割を担う。
著者の最近の作品は、刑務所を舞台にした『燃えよ!刑務所』某乳業会社の事件を連想させる『牛乳アンタッチャブル』など、社会性のある設定のものが少なくない。
もちろん、どの作品も、ドキュメンタリーなタッチとは極にあるかなりスプラッタなノリの作品である。
それは、著者が、賢げなキャスターや識者たちが、眉をひそめながら大真面目に伝えるニュースの高尚な社会性の裏側にある、笑うしかないような安い現実を見据えているからだと思う。
その安さを力強く表現しようとすると、こういうスプラッタなノリになるのだろう。
とにもかくも、絵にかいたように小心な考古学者・藤守が、若者たちのトーク番組を見て、「俺は、たった一人で日本中を騙しとおせた男だ!」といきなり強気になり、「嘘ッこ発掘ドキュメント」を企画して、笑いも泣きもできるタレントに成り上がる(もちろん、そのままで終わらないのだが)展開は、最高だ。
■ヤマもオチも無視して、ひたすらエスカレート!「イイ話」に飽きた人はぜひ!
さて、最近、エンターテインメント文学の世界では、著者と同年代の作家たちが、高い評価を得ている。
石田衣良、片山恭一、ヒキタクニオ、東野圭吾・・・。
それぞれに個性的なのであるが、共通項は、「巧い」ことである。展開がスムーズで、ハメのはずし方も巧い。だから、安心して読める。たとえ、ラストは、悲惨でも、読後感的には、概ね「イイ話」にまとまる。良質なエンタメ作品の条件であろう。
その点、この庁舎の作品は、まったくまとまらない。
ヤマもオチも関係なく、ひたすらにエスカレート、ハメは一度外したら、戻ってこない。
もしかして、ノリだけでかいていて、読者、無視している?
とまで思う。
それが、うーん、
快感なのだ。
穿った見方をすれば、読者に阿らない、とでも言うべきか。
いや、そんなことはともかく、面白い。このスピード感、度肝ぬく展開。この無遠慮さ。「イイ話」に少々飽きた人は、ぜひ、ご一読あれ。
この本を買いたい!
トカジ・ファンになったら、まず!「Tokajungle」へ
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