サスペンスとして読むなら、主人公が中傷ビラで自分と家族を追い詰めていく存在を追跡する『繋がれた明日』の方が先が読めず、面白い。
ただ、泣かせるという点では、自分の学費を捻出するために罪を犯した兄の存在に悩み苦しみ、最終的にある決断をする主人公の心情を切々と描く『手紙』が圧倒的に強い。大衆受けでは、こちらだろう。
■「中学生」を扱った石田衣良作品の評価やいかに?
ビジュアル化という点では、この二人よりメジャーだが、作風から賞とは無縁のアウトローのイメージがある石田衣良も、『娼年』が第126回、テレビ化で人気の「池袋ウエストゲートパーク」シリーズが第128回にノミネートされている。
個人的には、今回の候補作『4teen』も含め、刊行する作品どれも好きなので、ぜひ「合わせ技」で受賞していただきたい。
しかし、しかし、である。
いかんせん、少々時期が悪い。
『4TEEN』は、タイトルどおり、イマドキの14歳の中学生を描いた作品なのだが、登場人物はまったく不良でもないけれど、「良識ある大人」の範疇にぴったり収まる中学生でもない。少年犯罪を思わせる記述もある。長崎の某事件の勃発で少年犯罪の低年齢化がマスコミで取り上げられていることを考えると、受賞決定の際に作品の質うんぬん以外の何らかの「圧力」が働いても不思議ではない。
うーん・・・・・・。
金城直紀、片山恭一、そして石田衣良といった、時代の空気を映した上質な「風俗小説」を書く作家にこそ、直木賞はふさわしいと思うのだが、時代の空気を映せば映せば移すほど、社会情勢との関わりあいも深くなり微妙な軋轢が生じる。まあ、石田衣良は、賞なんか取らない方がいい作家かもしれない(そう言えば、前回の直木賞候補に上がった横山秀雄氏が、「犯罪に手を染めながら骨髄ドナーとなって他人の生命を助けようとする登場人物の行動は社会的にリアリティーがない」という批判を受け、直木賞との決別宣言をしましたね)。
さて、残りのお三方は?