■地球の環境は戦争に耐えられない。環境の依存してしか生きられらない人類にとって、平和は・・・
連続テロの衝撃が生々しかった2002年9月19日に、国際法の観点から報復戦争への疑問を提議した声明文を作成したへの著者は、本書の中でこう語る「冷静な議論の方法と習慣を作っておかないと、まやかしの議論に引きずられてしまう」――
本書は、その第一歩として、戦争に対する自分自身の立ち位置を正確に測定するための「羅針盤」の役割を果たすべく、戦争に関する主要な議論を取り上げ、考察していく。
本書で取り上げられる「戦争に関する議論」は、キリスト教世界で「正義の戦争」観が成立した中世期、国家が教会を凌駕し、その「地上の力」に歯止めがきかなくなった近世初期にまで遡る。さらに、広島への原爆投下に「ノー」と言ったアメリカの法哲学者ロールズの主張、東京裁判及び「東京裁判史観」、日本国憲法9条の問題点、小林よしのりの『戦争論』への疑問など、ホットな論点も数多く取り上げられている。
すべての論点に関して著者の主張を私の拙い筆力で要約するのはとてもとても無理なので、あまりに印象的だった考察を一つだけ挙げ、さらに著者に基本的なスタンスを挙げるに留めたい。
1 貧困や人権侵害も重要な問題であるが、戦争を克服すべき独立の目標としてとらえなければならない。
2 人類は永久の平和を達成するように努力しなければならない。
3 民主主義の体制が成立しても、戦争を防ぐのに十分ではない。
4 戦争を有効に集稀有させる平和的手段の開発が必要である。
5 すべての軍事的先制攻撃は不正である。
6 戦争を有効に終結させる平和的手段がない場合には、すでに発生している戦闘を停止させるための戦闘行為は正当である。
このうち、私が、胸を衝かれたのは、3「民主主義体制が成立しても、戦争を防ぐために十分ではない」である。
著者は、フランス革命によって成立した「共和国・フランス」=民主主義国家が完全な共和制でなかったプロイセンに対して行った戦争を例にとり、「民主主義国家は平和的であるというのは誤解である」と主張する。もし、これが「真」であれば、「イラクを民主化するための戦争」が「戦争抑止」のための「戦争」であるという主張の正当性はあきらかに損なわれる。
なるほど、「ブッシュが絶対読まない本」である。
著者が、「甘い理想主義者」であるかどうかは、本書を読む方それぞれの判断に委ねられるであろう。しかし、少なくとも「地球というもはや戦争には耐えられない環境下において、人類は平和であるという条件のもとでしか生きられない」という定義は、明らかに「真」であると思う。「戦争は永遠になくならない」ということは証明もできないとも思う。それならば・・・・・・
★あえて、アラ、捜します!
読み通すと、「戦争倫理学」というカタいタイトルから著者の信念とこの本の意義がジンジン感じられるのですが、手にとってもらいづらいだろうな~。私もあの書店のポップがなければ・・・。
この本を買いたい!
本書にも紹介されている著者の反戦メール「ゲルニカを忘れないで」などが掲載されている著者のホームページは「加藤尚武のホームページ」へ。
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