『愛と永遠の青い空』
辻 仁成 幻冬舎 1400円
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■トレンディーなはずの著者が選んだ、トレンディーとは程遠い主人公。戦中派の男が宿命の地で見たものとは?
主人公は、敗戦、戦後と価値観が一変する時代に生きづらい処世を送ってきた頑固一徹の戦中派である。直木賞作家にして、ミュージシャン、人気恋愛長編の書き手であり、そして、あの女性の選んだ男性――何かとマスコミの俎上に上がることの多い著者。平俗な言い方をすれば、時代の先端を行くイメージの強い著者とは若干そぐわない気がする人もいるだろう。彼は、この主人公を通して、何を描きたかったのか、そのテーマに触れる前に、まずはストーリーを。
元・軍人パイロット、周作は、妻に自殺という残酷な形で先立たれ、独立した子どもたちにもその頑固な気質ゆえに敬遠されるという孤独な老いの日々を過ごしている。そんな彼に久しぶりに再会した戦友の一人が唐突に持ちかける。
「これから真珠湾に行こう」――
1941年、12月。一機の爆撃機にその命を委ね、歴史と自分たちの人生を大きく変えることになる奇襲のために飛びたったのだ。あれから、半世紀。時代に裏切られたかのような日々を過ごす3人は、再び、宿命の地へと向かう。周作のバッグには、自分の呼びかけに満ちた亡き妻・小枝(さえ)の日記があった・・・。
青春そのものが「戦争」であり、「日本」という国そのものが自らの生きる規範であった周作たち。彼らは、ハワイで、自分たちとは違う場所、違う価値観で生きていた様々な人々にとっての「戦争」と「日本」と出逢う。
自分たちが爆撃により足を失った元・米国軍人にとっての「戦争」。二つの祖国に引き裂かれ、アメリカ人として生きる道を選んだ日系人たちにとっての「戦争」。そして、日系人の父と日本人の母を持つ若き女性にとっての「日本」・・・。
周作たちは、彼らとの出逢いのなかで、改めて自らに問う。
あの戦争が自分にとって青春ならば、それはあの戦火の中で燃え尽きたのか?
生きづらさに耐えて懸命に紡いだ戦後の日々に意味はあったのか?
あの戦争は何だったのか?
さらに、周作には、もう一つ問わなければいけないことがあった。
自分の名で埋め尽くされた妻の日記を読みながら、彼は問う。
生涯のすべてを賭けて自分を愛してくれた一人の女性を、なぜ孤独のうちに死なせたのか?
人生の中で愛した女性に、なぜ愛を表してやることができなかったのか?
そもそも、自分の彼女への愛は、真実だったのか?
不器用なまでに真正面からその問いと対峙し、答えを探す周作。
戦中派、頑固一徹--読み進むうちに、この主人公と著者が不思議と重なっていく。その理由は・・・。