『生きる』
乙川優三郎 文藝春秋 1286円
この本を買いたい!
■武家社会に生きる「普通人」の哀歓。派手さはないが・・・
もう既にご存知だと思うが、第127回芥川賞・直木賞が決定した。直木賞は、乙川優三郎『生きる』、芥川賞は、吉田修一『パーク・ライフ』。
今回は、既刊の『生きる』のご紹介を(急いで読みました。未読でした)。
ちなみに、第127回直木賞の候補作は、
●江國香織『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』
●奥田英朗『イン・ザ・プール』
●中山可穂『花伽藍』
●松井今朝子『非道、行ずべからず』
さて、これらの作品を押さえての受賞となった作品の内容は・・・。
恩義ある藩主の死にあたり、追腹による藩政空洞化を恐れた上役から、追腹(殉死)の禁じられた又右衛門。追腹の禁令は発せられたものの殉死はあいつぎ、又右衛門の娘婿も妻・舅の制止も空しく切腹して果てる。「次は、又右衛門か」そんな声が高まる中、揺れ動きつつも、上役との約定を守りぬく又右衛門。家中の非難、夫を止められず自分だけ生き残った父への怨みを抱く娘。苦渋に満ちた時間をただ生きた12年の末に、又右衛門が手にしたものとは?表題作はじめ時代小説3編を収める。
どの作品も、大立ち回りがあるわけでもないし、怪異なできごとが起るわけでもない。艶めかしい色恋沙汰もほぼない。カッコいいヒーローも美しいヒロインも登場しない。率直に言うと、地味である。しかし、読後感は、とても充実している。「地味」いや、「滋味」深い作品なのだ。では、この作品がもつ「滋味」とは?