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<第1回>ちょっとだけカルトな本棚 『アラビアの夜の種族』

すごくブームなわけじゃないけれど、本好きには話題。知っているとちょっと通ぶれる本をご紹介。今回は、日本推理作家協会賞受賞、現代に蘇るアラビアン・ナイト。個人的にはかなりイケてます!

執筆者:梅村 千恵


『アラビアの夜の種族』


古川日出男
角川書店
2700円

この本を買いたい!




■21世紀版アラビアン・ナイト。凝った構成で本好きを唸らせる

物語は、まず、西暦1798年のエジプト・カイロから始まる。惰性的な平穏を貪るイスラムの都に、ナポレオン率いる艦隊が侵略してくるという噂が流れる。悪しき予感が毒気のように巷に広がる中で、権力者に仕える高級奴隷である若き男・アイユーブは、ある術計を主人に進言する。「敵軍に一冊の書物を献上する」。その書物こそが、読む者を狂気に導き、歴史さえ覆す「災厄の書」――。書物を捜し求めたアイユーブは、正史においては存在したことさえないその書物に書かれるべき物語を口承してきた「夜の種族」にたどりつく。そして、種族の最後の生き残りである麗しき女性・ズームルッドは、夜を継いでアイユーブに語る。砂漠の魔都・ゾハルを舞台に千年の時を超えて展開された奇想天外な物語を・・・。

現在に蘇る千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)」という謳い文句とおり、語り部が毎夜毎夜、ある物語を語るわけだが、その物語の中にも、さらに二つの物語が含まれ、そして、最終的には、それが、巨きな一つの物語に収斂していく。さらに、その物語を語る者たちにも、聞いている者たちにも奇しき物語がある。
わわわ、「物語」だらけ!手っ取り早く言うと、「物語の中に物語がある」=「メタ・フィクション」である。凝った重層的な構造で、それだけでも本好きの読書魂をビンビン刺激する。
だが、本書の魅力は、それだけではないのだ。
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