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たまにはじっくり。文芸書<第1回> 『カシコギ』(2ページ目)

韓国で社会現象的ヒット! 厳しい経済情勢と苦闘しながらひたすらに父性愛を貫く男の生き様に、なんだかだといって、やっぱり、泣けます。それにしても、なぜここまで売れたの?

執筆者:梅村 千恵

■ヒットの要因は、不況による既存価値観の崩壊?

ここまで書けば、カンのいい方なら、物語の結末がある程度予測できるだろう。そして、その予測は、おそらくそう大きく外れていないと思う。

話の筋立てとしては、シンプルといえば、シンプル、悪く言えばクサイのだが、この本の真価はそこにはない。

とにかく、主人公のチョンは、もの書きであるが、彼を取り巻く経済的環境はけっして甘いものではない。おまけに、この男、けっして世渡りのために自分の内面からの声を簡単に黙殺できるタイプでもない。外からも内からも、絶えず、ギリギリの決断を迫られるヘビーな状況が、これでもか、と書き込まれ、しかも、簡単にエンドマークが出ない。かなり息苦しいのだが、反面、そこに強烈なリアリティーがある。

IMFショック以降の同国の不況は、伝統的な家父長制度にも大きな打撃を与え、社会から公認されていた「父」の権威が揺らいでいると聞く。閉塞感にあえぐ同国の「父親」が、この本をどんな思いで読んだのか。ヒットの背景はこのあたりにもありそうだ。

もちろん、ある特定の層だけの支持で社会現象化するほどのヒットにはなるまい。厳しい現実が執拗に書き込まれていればいるほど、主人公の生き様の純度は高まる。年齢、属性を問わず幅広い層が、そこに、物質的な豊かさを得る過程の中で置き忘れてきた大切な何かを見出したのであろう。

「愛」「犠牲」といった、普遍であるがゆえにとかく敬遠されがちな主題を真正面から扱った、まさに、力技である。

★あえて、アラ、捜します!
クサイ!とは言いません。それにしても、母親、あまりにも、悪く書かれすぎじゃありません? もう少し彼女の人物造形に深みがあってもよかったのでは?

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