噺家の必須アイテム……高座扇子と夏扇子の違い
「扇子」は噺家の必須アイテム
これが噺家が通常使う高座扇子。骨の数は15本で骨の間隔が広く、広げにくく、仰ぎづらい。しかし、頑丈な作りですので、儀式、演壇、演舞等の小道具として利用
噺家が使用する扇子は「高座扇子」といい、私たちが普段使う夏扇子より大きめの7寸5分(23cm)でガッシリ作られています。これは風を仰ぐだけてなく、落語の見立て道具として、使われるからです。
紙は白かベージュで無地のものが多い。なぜなら、落語の高座での扇子はモノの見立てとして使用する小道具なので、絵や文字が書かれていると、高座で広げたときに、文字や絵に観客の意識が注がれてしまい、落語の演目に支障をきたすからです。
それでは、落語の高座で扇子はどのようなもに見立てられるのでしょうか? 扇子の主な見立てを紹介します。
チョイと一服、キセルでござい
扇子を閉じて、根(手で持つほう)部分を吸い口にします |
登場人物によってタバコの飲み方を変えます。武士はキセルを自分の口に持っていき鷹揚にゆっくりプカリと吸う。民百姓はキセルの吸い口に自分の口を持っていき、プカプカ忙しなく吸う。また吉原の花魁は斜に構えやや斜めに二三口程度プカ~リ、プカ~リと長めに吸います。花魁のキセルは長キセルといって、通常のキセルの2~3倍の長さがあるからです。
扇子といえばキセルというほど、噺家にとって基本中の基本の見立て。どの古典落語の演目にもたびたび、登場しますので寄席や落語会に行けばかならず見れます。
「扇子」の一番分かりやすい使い方……箸
NHKでの「趣味悠々」シリーズの「落語をもっとたのしもう」の2枚組DVDセット、「時そば」を分かりやすく映像で紹介しています |
扇子を箸に見立てるネタで一番、ポピュラーなのが「時そば」です。みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
釣竿(ツリザオ)で魚を釣る
昔から日本人の代表的な趣味の一つとして認知されているのが釣り。古典落語の中でも「野ざらし」「唖のつり」「穴釣り三次」など釣りを題材にしたネタが数多くあります。特に「野ざらし」は寄席や落語会でしょちゅう演じられるネタですので、扇子を釣竿に見立て、見えない釣り糸を池や川に投げ込む様子を臨場感たっぷり楽しめます。高座で噺家が「野ざらし」を演じ始めたら、噺だけでなく、釣りの演技に注目してみてください。
手紙を筆(フデ)で書く
古典落語の舞台は江戸時代ごろですので、書き物はすべて墨と筆でかきます。手紙を一筆、証文に一筆など多くのネタの中にモノを書く場面が登場します。このとき書く筆は扇子で、書かれる紙は手ぬぐいで見立てます。効果音道具といてトントントントン
扇子を閉じて、根(手で持つほう)部分を高座の床に立てに叩きつけます |
変幻自在に様々なモノへ変身
他にも、しゃもじ、徳利(とっくり)、杯(さかづき)、刀、槍、長刀(なぎなた)、天秤や籠(かご)の担ぎ棒、門番の棒、げんのう(カナヅチ)、そろばん。さらに新作落語では携帯電話やパソコンのマウスなんかにもなったります。まさに変幻自在でなんにでも変身。ただの一本の扇子が噺家が落語の上で見立てるだけで、そのように見えてしまうから不思議です。モノへの見立ては基本的なルールがありますが、表現も仕方は各噺家の特色があります(丁寧に見立て表現をする噺家もいれば、さらと流す人もいます)。今度からちょと高座でも噺家のモノの見立てをを注意して見てはいかがでしょうか? きっと落語の面白みがさらに膨らむと思いますよ。
【関連記事】