「芝浜」といったら三代目・桂三木助。まずはこのCDを聴きましょう |
「芝浜」といえば三代目・桂三木助が作家の安藤鶴夫と共に練り上げたバージョンが特に有名で、現在の大ネタ「芝浜」の基盤となっています。
まずはどんな内容の噺なのかを紹介します。
酒に溺れた魚屋の亭主
腕は良いが酒に溺れ、まったく仕事をしない魚屋の亭主。そんな亭主に業を煮やした女房が早朝、無理やり叩き起こし、芝の魚市場に魚の仕入れに向かわせる。渋々、出かけてみたが、時間が早すぎたので魚市場はまだ開いていない。「女房のやろう、時間を間違えやがったな」と文句を言いながらも、久々に早起きして見る明け方の浜の美しさに感銘する。ここが前半の最大の聞かせどころ!冬の早朝の美しい浜辺の様子が浮かんでくるような描写にジーンときます。でも、ここを省く噺家もいますね。
拾った財布の大金は夢なのか!?
魚市場が開くまでと、亭主が浜辺で一服していると、浜辺に流れ着いた汚い革財布を見つける。その財布を拾い上げ中身を確かめると、中には大量の小粒金が。慌てて長屋に帰り、女房に財布を見せつけ、「もう、これで当分遊んで暮らせる」と仲間を呼び出し、浴びるほど酒を飲み、またまた寝入ってしまう。
翌日、二日酔いで起きた亭主に女房が「昨晩の酒代の支払いはどうすんだい!?」とカンカンに怒っている。亭主は拾った財布の金で賄えと言うが、女房はそんなものは知らないし、見たこともないと呆れ顔。「そんなことはない!」と女房を問いただし、家中を探すが財布は出てこない。
茫然自失しながら「あれは夢だったのか」と財布の金を諦める。そして、今までの行いを悔い改め、女房に酒を断ち、仕事に精を出すことを誓う。
もともと腕の確かな魚屋だったので、懸命に働き出せば、得意先も戻り、以前にも増して客も増えていく。無心に働いた結果、3年後には棒手振り(天秤棒を担ぎながら町内を売り歩くスタイル)から一軒の魚屋を構えることができるようになった。
3年後の大晦日の晩
その年の大晦日の晩、今年の仕事をすべて終え、風呂から帰ってきた後、女房と二人でしみじみと今までの苦労を語り合う。急に女房は真顔になり「お前さんに隠し事がある」と切り出す。亭主はどうせヘソクリかなんかのことだろうと思い、なかなか笑って取り合わない。
すると女房は汚い革の財布を出し、中身を広げる。小粒金で50両近くある。
最初はこの大金に皆目検討もつかなかった亭主だが、3年前のことを思いだし、芝の浜で拾った財布が夢でなく本当だったことに気づく。そして、今までそのことを隠していた女房に怒りが湧き上がる。
女房がついた嘘のわけ
ここで女房は嘘のわけを涙ながらに説明する。あの3年前、拾った金とはいえ自分達の懐に入れていいものかどうか悩んだ挙句、亭主が酔っ払って寝てる隙に大家に相談に行った。大家いわく、横領したことがもし、お上(役人)の耳にでも入れば、死罪になりかねない。亭主を助けると思って財布を役所に届け、「財布を拾った夢でも見たんだろう」と白を切れと。
そして月日がたち、落とし主が現れなかったので、役所から拾った財布がそのまま戻ってきたのだと。
しかし、財布が戻ってきたとはいえ、せっかく酒を断ち仕事に打ち込んでいる亭主に、戻ってきた大金を見せると、また仕事をしなくなり酒に浸ってしまうんではないかと心配で、怖くて言い出せなかったと、涙ながらに詫びる。この女房のついた嘘のわけのくだりが「芝浜」の中での最大の聞かせどころ
この事実を知り、亭主は怒りを納め、嘘をついていたとはいえ、自分を立ち直らせてくれた妻に感謝の意を述べる。
完璧すぎる見事なサゲ(落ち)
妻は3年間一心不乱に仕事に打ち込んできた亭主を労い「久し振りに一杯どう?」と酒を勧める。はじめは拒んでいたが「もう、あんたは大丈夫」としきりに勧められると、嬉しそうに杯を受け取り「一杯、頂くとするか」と口先にまで酒が注がれた杯を運ぶ。亭主は急に思い立ったように、杯を置く。
妻「おまいさん、どうしたの? 」
亭主「よそう。また夢になるといけねぇ」
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