『おばあちゃんの家』 |
その映画とは、韓国映画『おばあちゃんの家』とイラン映画『少女の髪どめ』。どちらも主役は、素人。そして愛していることを言葉で説明しない。無条件に相手を思い、相手のために行動するのみ。
拒絶されても、孫の心に近づこうとする祖母
『おばあちゃんの家』のおばあちゃん役、ミム・ウルブンは、イ・ジョンヒャン監督(『美術館の隣の動物園』)が、「そこに行けば、おばあさんが見つかると思った」という、海抜800メートルの村ヨンドンで出会った、映画を一度も観たこともない女性だった。
映画の中のおばあちゃんは、山奥の貧しい村に一人で住んでおり、耳と口が不自由。さらに文字も読めない。そんな彼女のところに、17才で家出をした娘が、7才の息子を一時預かってくれと頼みにくる。そして1泊もしないまま、息子を置いて帰って行く。
ファーストスードが大好きな、都会で甘やかされた孫とおばあちゃんだけの生活。予想通り孫は、白髪で90度腰の曲がった、読み書きのできない、言葉も話せないおばあちゃんをバカにし、邪険にする。朝から晩までゲーム機で遊び、食事は持参した缶詰を食べ、おばあちゃんの作った漬物なんか手もつけない。
でもそんな孫に対して、おばあちゃんは怒ったり、哀しんだりしない。幼い子どもが一人取り残された淋しさを、なんとか紛らわしてあげたいという思いで、孫に出来る限りのことをしてあげるのだ。それも押し付けがましくなく。ほんとに「これだけしかできなくて、ごめんね」という感じで。
無条件で全てを与えてくれる存在
このおばあちゃんの役割について、監督はこう答えている。「一言で言うと、“自然”です。これはこの映画のキーワードでもあります。おばあさんが口をきけないという設定にしたのも、“自然”というのは、言葉を話さないし、無条件で全てを与えてくれる存在だからです」
監督は、できる限り自然に見えるように、ロケーション場所も手を加えずに撮影し、その村の人々に出演してもらったようだ。
母親が迎えに来るラストシーン。おばあちゃんに対する孫の気持ちは変化しているが、大げさな感情の吐露はない。おばあちゃんも、いつものように淡々と見送る。それだけでも涙は我慢できずに私の頬を流れているのに、孫が残した絵葉書を見せられて、もうダム決壊、果てしなく涙は続く!となってしまった。さらに、孫の乗ったバスを見送り、また元の生活に戻るんだというように、一歩一歩山道を登り、家に戻る腰の曲がった小さな姿に胸が詰まる。きっと、小さい頃におじいちゃん、おばあちゃんのシワシワ顔が恐くて邪険にした経験がある人は、かなり胸にグッとくる映画だと思う。
■『おばあちゃんの家』
監督:イ・ジョンヒャン 出演:キム・ウルブン、ユ・スンホ
2002年/韓国 配給:東京テアトル・ツイン
3月29日より岩波ホールにてロードショー