●エルミタージュを訪れる盲目の女性
詩人プーシキンの後に、彫刻のそばに立っている盲目の女性が登場します。この女性のエピソードは、実は実際に私が経験したことが基になっているんです。5年くらい前に、エルミタージュの中で、私の人生の中でもっとも美しくエロチックなシーンを目撃しました。若くて美しい盲目の女性が、ロダンの彫刻を自分の手で味わっていたのです。それも直接触れずに、彫刻のちょっと上をなぞっている。その素晴らしい光景に感動した私は、いつか自分の映画のシーンに使いたいと思っていました。
そのエピソードはずっと誰にも話さずにいたんですが、今回のエルミタージュの話が持ち上がったとき、抑えていた自分の気持ちを取り払い、サクーロフ監督に話そうと決めました。彼もこの話を気に入ってくれて、実際に映画のワンシーンに取り上げてくれました。映画の中でサクーロフは、「あなたは目が見えないんですか?」と言う代わりに、彼女にこう言います。「あなたはガイドとはぐれたんですか?」。実際に彼女は、絵も彫刻も全部見ているんです。“目”ではなく、彼女独特の“体”で。そういう意味において、この盲目の女性のシーンは、見逃してはいけないところですね。
●歴代の美術館長と会話する現在のピオトロフスキー館長
リハーサル中の監督とカメラマン(c)Alexander BELENKIY |