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映画製作者が教える不思議な時間旅行の楽しみ方 映画『エルミタージュ幻想』(2ページ目)

90分ワンカット映像が話題の映画『エルミタージュ幻想』。過去と現在が交錯する不思議な旅の楽しみ方を、ロシア側プロデューサーのアンドレイ・デリャービンさんに教えていただきました。

執筆者:名護 末子


(c)2002 Hermitage Bridge Studio and Egoli Tossell Film AG


●エルミタージュを訪れる盲目の女性
詩人プーシキンの後に、彫刻のそばに立っている盲目の女性が登場します。この女性のエピソードは、実は実際に私が経験したことが基になっているんです。5年くらい前に、エルミタージュの中で、私の人生の中でもっとも美しくエロチックなシーンを目撃しました。若くて美しい盲目の女性が、ロダンの彫刻を自分の手で味わっていたのです。それも直接触れずに、彫刻のちょっと上をなぞっている。その素晴らしい光景に感動した私は、いつか自分の映画のシーンに使いたいと思っていました。

そのエピソードはずっと誰にも話さずにいたんですが、今回のエルミタージュの話が持ち上がったとき、抑えていた自分の気持ちを取り払い、サクーロフ監督に話そうと決めました。彼もこの話を気に入ってくれて、実際に映画のワンシーンに取り上げてくれました。映画の中でサクーロフは、「あなたは目が見えないんですか?」と言う代わりに、彼女にこう言います。「あなたはガイドとはぐれたんですか?」。実際に彼女は、絵も彫刻も全部見ているんです。“目”ではなく、彼女独特の“体”で。そういう意味において、この盲目の女性のシーンは、見逃してはいけないところですね。

●歴代の美術館長と会話する現在のピオトロフスキー館長

リハーサル中の監督とカメラマン(c)Alexander BELENKIY
歴代の3人の館長が登場するシーンでは、現在のエルミタージュ美術館の館長であるミハイル・ピオトロフスキーさんが、自分自身の役で出演しています。他の2人はすでに亡くなっていますが、そのうちの1人がピオトロフスキーさんの父親です。父親が息子にこう問い掛けるシーンがあります。「お前の電話はまだ盗聴されているのか?」と。すると息子は、「そんな話より、猫の話をしようじゃないか」と答えるんですね。ここでなぜ「猫」が出てくるのかというと、エカテリーナ時代から、ネズミが絵をかじらないようにするために、エルミタージュではたくさんの猫を飼っていたんです。ネズミがいなくなった現在でも、伝統に従ってエルミタージュの従業員がお金を出し合って、猫を飼っているそうです。
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