イケメンと怪しいオジサン?
30年前に伝説を作った『at 武道館』。ジャケットに写っているのはイケメン組の2人 |
無名だったチープ・トリックがなぜ日本で注目されたのか。それはまずルックスだろう。70年代は、グラビア満載の洋楽雑誌が数多く創刊されていた時代。ルックスのいいバンド、特徴的なルックスのバンドは、すぐに日本の10代の女の子たちの間で評判となったのだ。チープ・トリックのルックスは、とても特徴的だった。ヴォーカルのロビン・ザンダーとベースのトム・ピーターソンは、ロッカーらしいロングヘアの似合う美男子。それに対してギターのリック・ニールセンはひょうきんなイメージのルックスで、衣装にもギターにもトレードマークの白黒の市松模様をあしらっていた。そしてドラムのバーニー・カルロスはちょび髭で小太りというルックス。イケメン2人と怪しげな風貌のオジサン2人の対照的な組み合わせは、まるで少女漫画の登場人物のように明確なキャラクターを持っていたというわけだ。
サウンドも文句なくカッコいい
チープ・トリックの魅力はもちろんルックスだけではない。音だって文句なくカッコよかった。シンプルなロックンロールスタイルを基盤とするハードロックバンドだが、ギターのリフもヴォーカルのメロディもとてもポップで聴きやすいし、どの曲にも一緒に歌えそうなキャッチーなサビがある。脇役ながらシンセサイザーやキーボードなどの使い方もうまい。ヒットした「ドリーム・ポリス」や「サレンダー」などは、イントロだけでわくわくしてくる。とにかくノリがよくて、からっと明るく楽しいロックンロールなのだ。今聴いても、これでヒットしないわけがないと思えるほどだ。
ロビン・ザンダーは、そのルックスのとおりの甘い歌声と絶唱タイプのシャウトを使い分けるヴォーカリスト。リック・ニールセンは基本的にはシンプルなバッキングに徹しているが、トリッキーなワザを織り交ぜることもあり、実はテクニカルなギタリストであることがよくわかる。実は一番人気が高かったベースのトム・ピーターソンが、8弦ベースや12弦ベースを使っていたことも有名だろう。和太鼓のバチのような太いスティックで、ドがつくほどシンプルな8ビートをガンガン叩きまくるバーニー・カルロスとトムのコンビネーションは、シンプルながらパワフルでノリのいいリズムでバンドを支えていた。
こうしてみてくると、ルックスだけではなく、全員がプレイヤーとしても個性的だったわけで、人気が出るのも当然だろう。いずれにせよ、この『at武道館』を収録した公演の時点では、すでに日本では人気が沸騰していたわけだから、当時の日本の女の子たちのロックを見る目は相当確かなものだったと言える。