TOTOにとっての『TOTO IV』とは?
TOTOのメンバーは全員が、ジャズやクラシックに基礎を学び、多方面にわたる数々のセッションで幅広い音楽性とテクニックを身につけてきたミュージシャンだ。だからTOTOというバンドが持つ音楽性も非常に幅が広い。TOTOのアルバムは1作ごとに色合いが微妙に違うし、いったいなにがやりたかったのかは、後になってみないとわからないこともある。
今になってみると、『TOTO IV』のR&Bやソウルのようなサウンドは、実は彼らがTOTOというバンドでやりたかったことの中でも、かなり重要な要素だったのだろうと思う。
TOTO初期~中期のベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』 |
90年当時のライヴも、まさにそんな「R&B風」なショウになっていた。バンドの元気印で、ハードにギターを弾きまくり、ステージを飛び回るはずのスティーヴ・ルカサーが、ちょっと落ち着いた風情で引っ込み気味だったのを見て、彼はこういうサウンドのライヴはつまらないのかな、と思ったことを覚えている(もちろんそんなことはないはずだが)。
迷走する『TOTO IV』以降のTOTO
しかしこれ以降のTOTOは、一気に勢いを失ってしまう。『TOTO IV』では新たなファンをたくさん獲得しただろう。しかし「ロックなTOTO」を期待していたそれまでのファンは、必ずしも大歓迎したわけではなかった。それが失速の理由のひとつかもしれない。
次のアルバム『アイソレーション』では、コアなファンが望んでいただろうハードロック路線に向かったがセールス的には失敗。さらに『ファーレンハイト』ではテクノっぽいサウンドに手を出すなど、様々な挑戦をしたが、あまり評価は得られなかった。人気が少し上向きになったのは7枚目の『セブンス・ワン』だった。ジャケットのデザインも『TOTO IV』によく似た雰囲気のこの作品でTOTOは、ロックバンドが作るAORアルバムに回帰していたのだ。コアなファンは別として、多くのリスナーはやはり、グラミーを総なめにした『TOTO IV』のようなサウンドを待っていたのだろう。
しかし『TOTO IV』は、TOTOにとって大きな転機にもなったアルバムといえる。『TOTO IV』以降の迷走を招いた、別の方向への転換は、ひょっとしたらあまりにも大絶賛されたことへの反動だったのかもしれない。
また、『TOTO IV』は、TOTOのオリジナルメンバーでの最後の作品でもある(アルバムジャケットの写真には、ベーシストのマイク・ポーカロがちゃっかり写りこんでいるが、ベーシストの交代は本作レコーディング直後だ)。とくにヴォーカリストはこれ以降めまぐるしく交代している。メンバーの演奏力にあまりにも自信があるため、ヴォーカリストなんてどうでもいいと思っているのかと勘繰りたくなるくらいだ。それもTOTOサウンドの迷走を招いた理由だろう。現在はオリジナルヴォーカリストのボビーが復帰し、最新作にも以前のドラマチックなTOTOが戻ってきている。アメリカでの人気低迷が少し気になるところだが、今後のさらなる復活に期待したい。
いずれにせよ、ファンにとってもTOTO自身にとっても、『TOTO IV』はとても重要な意味を持つアルバムだったことは間違いない。
【関連リンク】
キングレコードのTOTOの情報ページ。昨年発売のアルバムなど現在のTOTOの情報を掲載。
TOTOの公式サイト(英語)