20代と60代を演じ分ける難しさ
プレス:作中でイ・ビョンホンさんは20代と60代を演じ分けています。ふたつの年齢を演じた感想を教えてください。
ビョンホン:
たしかに20代の前半と60代というのは実年齢からかけ離れています。どちらの演技も精神の負担が大きかったのですが、20代は経験した時代ですので、当時を思い出して演じました。20代というのは、小さなことにも大げさに反応し、そして何も恐れることなく、情熱を持っていた時期だと思います。
一方、60年代は経験していないので、あくまでも想像して演じました。歩き方や表情はメイクでカバーできますが、難しかったのはその年代の人はどのような気持ちを持っているのか、ということです。同じ刺激を受けても20代と60代ではリアクションが異なると思います。60代では喜怒哀楽もすべて知っていますし、心に傷を負っているでしょう。傷が心に染み付いている世代なので時間の流れとともに余裕が出てくるのだと思います。若い頃は驚くようなことでも、笑って流せるような余裕があるのではないかと思いました。
プレス:
撮影中のエピソードを教えてください。
スエ:
撮影中は、真夏の暑さで苦労をしたことを覚えています。ビョンホンさんがとても日に焼けてしまいました。彼は都会から来る青年で私は田舎の女の子なのですが、立場が逆転してしまったような気がしました。
ビョンホン:
楽しいエピソードはたくさんありました。実は、私と監督は偶然誕生日が同じで、現場で合同誕生パーティーをしてくれました。こっそりスタッフとスエさんが準備していて、スエさんがケーキを用意し、皆がノートに一言ずつ書いてプレゼントしてくれました。撮影中に今度はスエさんの誕生日もあったため、同じようにケーキとノートに書いたメッセージをプレゼントしました。
プレス:
映画の魅力を教えてください。
監督:
ここにいる俳優の美しくも哀しい魅力。外見だけではなく、心から感じる美しさや哀しさ。それが皆さんの心の琴線にも触れて感動することができると思います。
初恋についてのコメント、意味深ですよね。数年前ニュースになった共演者との破局……そんなことも彼の心の中には残っているのかもしれません。昨年夏の東京ドームでのイベントでも感じたのですが、イ・ビョンホンは実に深い役者だと思います。1960年代という時代や、60歳という年齢を演じたことに関する感想には、彼の人間性の奥深さが現れています。
『夏物語』にはビョンホンの繊細な魅力が溢れています。20代のはつらつとした姿、そして初恋を知った後の心の変化。時代は軍事政権時代を背景にしたものですが、実はビョンホンの等身大に近い姿が現れているのでは――。そんな気がする作品です。
映画『夏物語』ストーリー
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1969年、夏。農村でボランティア活動をするためにソウルから田舎に向かう大学生グループの中に、若きソギョン(イ・ビョンホン)の姿があった。
朴正煕大統領が経済発展を優先させる一方で、反体制的な大学を一時閉鎖するなど軍事政権の手綱を強めていた時代。若者たちが自由を求め政治談議に講じる中、ソギョンはプレイボーイを気取る問題児だった。口うるさい父を避けるために参加した農村ボランティアも、サボってばかり。
そんなある日、森に出かけたソギョンは、古ぼけた韓国の伝統家屋を見つける。空き家だと思っていた家の中には清楚で美しい女性、ジョンイン(スエ)がいた。ソギョンはジョンインと徐々に親しくなり、生涯一度だけの純粋で情熱に満ちた恋に落ちる。身よりもない寂しい身の上にもかかわらず、村の図書館で働きながらたくましく生きるジョンイン。ところが、彼女はなぜか村人たちに疎まれ、いつも浮いた存在だった。理由は彼女の父親が'アカ'(共産主義者)だったということで村を追われたからだ。その理由を知ったソギョンは、ジョンインを村から連れだしソウルに向かうことを決心する。しかし、その夏の終わりに大学のキャンパスは厳しさを増す政治情勢によって状況が一転、時代のうねりはふたりの愛さえも無残に引き裂いていった。
一生に一度の忘れられない夏、忘れられない恋。約30年の時を経てソギョンはジョンインに出会うことができるのか――。
映画『夏物語』公式ホームページ