正義が守られていない世の中へ伝えたかったこと
監督(左端)もステージに登場。日本公開直前のショットはとても晴れやかな雰囲気だった。撮影中のショットは…次のページでどうぞ! |
「私が大学に通っていた時代の映画学科には、『映画を武器に社会を変えよう』と信じていた人たちがたくさんいました。でもその後そういう考えは消えてしまいました。最近の若者は政治に無関心になったのです」
―90年代半ばに、韓国で『美しい少年ジョン・テイル』という映画がありました。労働運動に参加した貧しい少年の人生をストレートに描いた作品でしたね。
「現在の韓国では90年代のようにストレートに社会的メッセージを出す映画は受けないんです。今の時代は、『商業的な価値を高めながら、いかに自分のメッセージを伝えるか』というのが大切で、難しい点です。私は社会と闘う知識人というタイプではありませんが、正義が守られない世の中、そして自分もそれに対して何も感じなくなっているということを反省をこめてこの映画で伝えたいと思いました」
クォン・サンウがワイルドになった理由
―クォン・サンウ、ユ・ジテという2人をキャスティングした理由を教えてください。「最初はもっと年上の俳優をキャスティングすることを考えたのです。でも映画に登場する主人公2人は世間の垢にまみれていない存在にしたかった。感情的で少年のイメージをもった存在に。大人の世界の現実にぶつかって、傷つくストーリーにしたかったので、最終的に若い2人をキャスティングすることに決めました」
―これまでソフトなイメージの作品が続いていたクォン・サンウがワイルドな役に挑戦していますね。
「それが心配なんです(笑い)。日本のファンの方たちが、こんな汚いクォン・サンウはイヤだって思わないかと。あるスターが俳優になりたいというときには、まずキャラクターを考えます。クォン・サンウは今その段階で、俳優として認められるような仕事がしたいと変化に挑戦しました」
映画に投影したクォン・サンウの素顔
監督がクォン・サンウに会ったのは、脚本を書き上げてからのことでした。実際に会ってから、クォン・サンウの人柄にあわせ、シナリオを変えたといいます。「監督と俳優という関係を超え人間クォン・サンウを知って、登場人物のチャン・ドヨンよりもクォン・サンウ自身の人生を脚本に描きたいと思いました。これまでの人生について、そして今の悩み…そんな話を分かち合いながら彼の物語と私の物語を脚本に加えていきました。彼の母親への思いや恋愛観をね」
―クォン・サンウがどんな人生観を告白したのか、気になります。
「彼と私の共通点は『平坦な人生を歩んでこなかった』とうことです。家族の問題、夢をかなえる過程など…。彼は表面的に見せる姿よりも、内面はずっと傷ついているということを知りました。父親と母親の関係、母親が女手一人で育ててくれたこと。彼は本当に親孝行なんです。スターとしてのクォン・サンウよりも実際は素朴な人物です。その姿をチャン・ドヨンに投影しました」
映画のキャラクターに投影した監督自身の姿…次ページで!>>