しかし三枚目、女役に至るまで、様々な色の役を演じてきた汐風さん。これだけ全く違う役を与えられてきたスターさんも珍しいでしょう。
彼女の「凄いなぁ~」と思わせるところは、どんな役を演じても、決して「汐風 幸」ではなく「●●役」として見せてくれるところだと私は感じます。
自分に役を近づけるのではなく、役に自分を近づけることに対しての天性の才能を持っているのでしょう。
だからこそどんな色の役も、それ以上でもそれ以下でもない、結果、汐風 幸でしか演じられない役として、舞台で生き生きと生き続けてきたのだと思います。
宝塚ファンの方でなくともご存知でしょう。汐風さんは、上方歌舞伎界の名門・松嶋屋、十五世・片岡仁左衛門丈の長女。父を兄(片岡孝太郎丈)を、もちろん祖父を伯父を……歌舞伎役者に持つ役者一家の元で育ちました。
蛙の子は蛙。親と同じ芸事の道に進むだけではなく、祖父や父の血をしっかりと引き継いでいました。
立ち居振舞いの美しさ。口跡の良さ。
“品”と“艶”と“粋”のある舞台。
誰もがそれを認めたのは、彼女の代表作でもある『心中・恋の大和路』の亀屋忠兵衛。クライマックスの雪山のシーン(通称・新口村)では、世話物の色男を得意とするお父様、仁左衛門丈の影を彷彿させました。
また最後の公演となった『花の宝塚風土記』での東儀秀樹氏作曲の日舞の場面。観ている者の心さえも洗うかのような、何にも誤魔化されない緊迫した素踊りが、彼女の宝塚人生の集大成を観せてくれました。
汐風さんは退団後も女優として活動されます。
まずは――元花組トップ・安寿ミラさん主演の「モンテ・クリスト伯」。
いつの日か、親子、兄妹、姉妹共演……も期待したいですね。
「最後まで進化し続けたい…」と、宝塚男役スターとして燃え尽きた汐風 幸さん。これからも、進化し続けて下さい。
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