男のこだわりグッズ/文房具・小道具

アイディアを捕まえる道具としての文房具を

文具メーカーのHIGHTIDEと家具を中心にしたデザインメーカーのgrafが提唱する、アイディア出しの支援ツールとしての文房具群が「hum」。そのデザイナーへの取材を基に、新らしい文具の在り方を考えました。

納富 廉邦

執筆者:納富 廉邦

男のこだわりグッズガイド

文房具メーカー×家具デザインによる新しい文具の形

HIGHTIDE × grafによる新しい文房具ブランド「hum」

文具と雑貨を得意とするHIGHTIDEと、家具を中心に生活を作るものをデザインするgrafが組んで、アイディアを生むための道具としての文房具のブランドを立ち上げました。それが、humです。「デザインを考える時には、常にお気に入りのペンを使うんです。それは、単に手に馴染んでいるとか、書き味が好きだという事もありますが、それ以上に、私がモノを生み出す時に頼りにしている存在なんです」humのメインデザインを担当したgrafの坂田佐武郎さんは、ペンとアイディアの関係を例に、humのコンセプトを説明してくれました。

今回、お話をうかがった、humシリーズのクリエイティブディレクター、grafの坂田佐武郎さん。

「アイディアを考える時って、人によって色んな動作をするんですよね。うちの会社には、もう少しでアイディアが出てくるという時、決まって身体を揺する人がいます。僕は、ボンヤリと窓の外を眺めるんです。子供が考え事をする時、斜め上を眺めるという話を聞いた事もあります。そういう部分もフォロー出来る、そんな文房具を作りたいと考えていて、ロッキングチェアを思い付いたんです」と坂田さん。椅子を文 房具と考えるというのは珍しいようにも思いますが、アイディアを出すための道具としてのロッキングチェアと聞くと、確かに、「うーっ」と唸りながら、humのロッキングチェア「tiny cloud」に座って、身体を揺らしてみたいと思いました。そうする事で、もう少しで形になりそうでうまく行かない、このモヤモヤが晴れるきっかけになりそうな気がするのです。

humは、アイディアが生まれるまでの流れを四つの段階にわけて、その全ての段階で使える道具を用意しています。その四つの段階は、think→catch→draw→stock。つまり、考える、その考えを捕まえて形にする、それを書くことでアウトプットする、そして蓄えたり整理したり。その流れをフォローするツールとしての文房具を提案しているわけです。それは、これまで家具としての机や棚をデザインしてきたgrafとしても「ステーショナリーとして、椅子などをデザインすることで、今までと全く違う物が生まれる可能性」を感じたのだそうです。

モビールとロッキングチェアを文房具としてデザインする

hum「tiny cloud」50,400円(税込)
色は、写真の限定色グリーンチェックの他、グレー、アイボリーがある。(c) Aki Kaibuchi

humのコンセプトを端的に表しているのが、「water level」と名付けられたモビールと、「tiny cloud」と名付けられたロッキングチェアでしょう。grafの坂田さんは「ラインアップにロッキングチェアを提案した時、ハイタイドの社長が即OKしてくれた、それがhumの始まりでした」と、「アイディア出しを支援する文房具」の形が明確になった瞬間の事を話してくれました。「机を中心にして、椅子とモビールが、机を囲むアイディア創出のための環境になるわけです」と坂田さん。もちろん、単に椅子とモビールを作っただけでは、アイディア創出のための道具にはなりません。

「最初は、自分の所で作っていた「プランクトンチェア」というパイプを使った椅子を元にデザインし直すつもりだったんですが、それでは上手く行かなかったんです」と坂田さん。従来の家具を作るための発想では、椅子をアイディア創出のための文房具として捉える事が出来なかったと言います。そこから、「ロッキングチェアではなく、humチェアを作ろう」と、鼻歌を歌うような気分で座れる椅子として作られたのが、「tiny cloud」です。だから、椅子としてはちょっと変わった形状ですが、この形こそ、寛ぐためではなく、デスクワークのためでもなく、考え事をするための椅子の形なのです。

言葉にしてしまえば、コンパクトで軽く、どこにでも持って行って使えるロッキングチェアです。また、場所を選ばないだけでなく、座り方も選ばない、自由度の高い椅子です。この上で寝るのは難しいけど、色んな姿勢で、ギッコギッコと揺らしながら座って考えるのです。かつて、学校の椅子を傾けて、後脚二本だけで支えながら、ゆらゆらと身体を動かしていたように、身体を揺する道具としての椅子なのです。これは、分かる人には分かる「アイディアが出て来そう」な感覚ではないでしょうか。

hum「water level」15,750円(税込)
色は、クリア、ガラス色、ミックスがある。(c) Aki Kaibuchi

一方、モビールも、当たり前ですが、普通のモビールではありません。「water level」と名付けられたモビールは、何とモビールなのに平面なのです。水面の動きや、天井に映る川の反射の光を再現するモビールとして作られているから、写真で見ると何がなんだか分かりませんが、実際に見ると、本当に天井に水面があるかのように、面が動くタイプのモビールで、意識しないとある事さえ忘れてしまいそうで、でも、ぼんやりと眺めるのにはとても心地良い動きを見せてくれるのです。

フワフワと光が揺れて、まるで部屋の中に自然の中のモノが紛れ込んで来たかのようです。動きも静かで、存在を主張せず、でも、その光の揺らぎが、アイディ アを考え始める時の頭の動きにピッタリとマッチします。モビールと聞くと、何だかガチャガチャした派手な物を思い浮かべてしまいますが、humのモビールは、むしろ、モビールを作ろうとしたのではなく、川の水の反射を再現しようと考えたら、その構造がモビールみたいだったという感じさえします。

アイディア出しの初期は、机に座ってボンヤリと上を見上げます。すると、モビールが、まるで水面のように静かに揺れて、光がそれに合わせるように揺れます。それを見ていると、いくつかのアイディアの断片が浮かんで来ます。でも、そのアイディアの断片は、言葉にすると消えそうな淡いものです。そこで、今度はロッキングチェアに座って身体を揺すってアイディアを絞り出します。

次のページでは、絞り出したアイディアを書くための鉛筆とメモを紹介します。

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