カジュアルに使えるトートのようなブリーフケースを目指して
初期の試作品。まだマチ部分などに角がある感じ
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上の写真は、村上さんがブリーフケースに着手した、かなり初期の試作品。外部ポケットが無く、把手が細く、全体にややスリムな感じです。
「元々、ショルダーバッグではまずいような、ちゃんとした打ち合せとか外出に使えるカバンが欲しかったんです。でも、あまり固い感じのものも持ちたくない。サイズは大きめのファイルが入るもの。とか考えてデザインしていきました。ポケットがない、この感じも好きなんですよ。だから、完成品の「TENERA」も片側だけポケットを付けて、反対側は広い革を見せるようにしたんです」と村上さん。
袋である事を強調した試作品。
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次の試作品は、外にポケットが付きましたが、やや小さいポケットです。しかもマチがない薄いモデルになっています。把手は太く平たくなりました。
村上さんによると「ショルダーバッグはマチ無しで作ったので、ここでも作ってみたんです。カバンの原点としての袋のようなカバンを考えていたので。ただ、せっかくのブリーフケースなので、外出先で不意に荷物が増えた時に対応出来るようにしたいと思い、ややゆったりしたマチにしたんです」ということだそうです。
最終形に近づいた試作品。完成までもう少し。
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ここまで来ると、ほぼ製品版と同じ感じです。違うのはポケットの上部にビスが使われていることと、把手の縫い方、口部分の作り方です。
「ポケットの大きさは、A4サイズの雑誌が入れられることを基準に決めました。僕が作るバッグは、実はA4サイズの雑誌が入る事が基準になってることが多いんですよ(笑)。雑誌が好きなんですよね。ビスを結局無くしたのは、金属部品は極力使いたくなかったのと、デザイン上のアクセントになるようなパーツも使いたくなかったからです」と村上さん。とにかく主張しないデザインにしたかったのだそうです。シンプルという以上に、さりげなく、そこにある感じ。その引っ掛かりの無さこそ、このカバンの最大の特徴でしょう。
カバンの重さとデザインを決める把手へのこだわり
把手の付け根とポケットの部分が手縫いで補強されている
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「TENERA」では、把手とカバンの繋ぎ目部分と、ポケットの上部は手縫いで補強が為されています。「この二ヶ所が、一番力がかかる部分だと思うんですよ」と村上さん。カバンの上部が丸く刳り貫かれて、そこに把手を縫い込んであるのですが、この作り方のために、かなり重い荷物を入れても、把手がカバンの革を引っ張らず、カバン上部の形が崩れません。ここの形が崩れると、とてもカバンが重そうに見えるのです。
様々な太さの把手を試して、持ちやすい太さを決める
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「把手の太さや形状で、カバンが重く感じたり軽く持てたりするので、とても気を使ってます」と村上さんが言う通り、この「TENERA」は、とても持ちやすく、実際よりかなり荷物も軽く感じます。その秘密が、試作を重ねて選ばれた把手の太さであり、縫い方やデザインなのです。「縫い目が手に当たると重く感じるんですよ。だから、手に当たる部分が全部丸くなっているように作っています」と村上さん。
「全体に柔らかくて腰が無い感じを目指したんですが、それだけだとあまりに締まりが無いデザインになってしまうんです。だから、把手は、ちょっとビシッとさせています。そうすることで、柔らかいけど、だらしなくはない、という感じが出せました」と村上さんが言われるように、この「TENERA」は、とても全体に緩くて、角が無くて、でも、どこかキチンとした場所にも持っていける気品もあります。ちょっと見ただけでは分からない、不思議な魅力があるデザインなのです。
次のページでは、実際に使ってみた印象や機能などを紹介します。