文具王高畑正幸さんインタビュー
文房具は俳句のようなもの
高畑さんが、ここ数年で個人的に面白いと思われたのはコクヨのヒット作「カドケシ」(157円)と、トンボの四色ボールペン「リポーター4」(367円)なのだそうです。
「カドケシは、要するに消しゴムはカドが使いやすいよね、というところから、カドをいっぱい付けた消しゴムを思いついたのだと思うんです。それは、潜在的にあった問題を解決するアイディアで、そのアイディアがとてもエレガントなんですね。また、トンボのリポーターは、四色ペンのノックする部分の形が全部違うんです。つまり手元を見なくても感触だけで出したい芯を出せるわけです。これは、大袈裟に言えば、人と道具との新しい関わり方の提案だと思うんです」と、高畑さん。
ノック部分のアイディアが秀逸な |
文具作りは、安くなければならないとか、小さい方が良いとか、制約がとても多いのだそうです。自らも、サンスター文具の社員として、文具作りに携わる高畑さんによると、その制約の中から「これ」というアイディアを考えるのは、俳句作りに似ているのだそうです。そうやって「今まであった欲求や考えを目の前に具体化する、それがデザインの醍醐味」なのだそうです。
高畑さん推薦のサンスター文具の名品たち
「でる消し」105円(税込) |
これは、高畑さんがカドケシにインスパイアされて考えたそうです。細かい部分を角で消すというアイディアに対して、「消しゴムの中から、何と消しゴムが出てくるんですよ、という面白さと、細い消しゴムと大きな消しゴムの組み合わせで使いやすさを付け加えたという小さなアイディアの合体です」と高畑さん。これも潜在的な問題を解決する文具の一つです。実際、使い始めると、細い消しゴム部分は常に細いので、どうしても丸く大きくなるカドよりも、ガイド納富としては使いやすく感じました。
「つながる鉛筆キャップ セクト」 |
「これは同僚が作ったものですが、単に鉛筆キャップの形を変えて連結できるようにしただけのものです。でも、連結出来ると、キャップとしてはもちろん、補助軸としても使えるんです。こういう、身近なものが便利に変身する、というようなアイディアが好きですね」と高畑さん。キャップの口部分にあるリングが、補助軸の時はグリップ代わりになり、キャップの時は着脱の際の滑り止めになるという細かい部分の配慮が面白いと思いました。
「シンドバット」210円(税込) |
「シャープペンの芯にオマケを付けるというのが流行ったんですよ。その時に何を付けようかと考えて思いついたのが、シャープペンを付けちゃおうという、いたってシンプルな解答でした。だから、これはあくまでも替え芯ケースなんです。ケースがシャープペンの機能も持っているというだけで価格は替え芯の価格です。これは、『替え芯のオマケにシャープペン』という落差の面白さを狙ったものです」と高畑さん。「芯ドバッと」という駄洒落ネーミングがガイド納富のツボでした。そして、この機能そのもののようなデザインも好きです。
「とじ&トル PRO」525円(税込) |
「これ、普通に凄いと思います。ただ、分かりにくいせいか、実演すると大人気なんですけど、その凄さが伝わりにくいのが残念です。ステープラー+リムーバーというだけでなくて、いかに垂直に針を出すかにもこだわっています」と高畑さん。このステープラーの凄さは、実際に使ってみないと分からないかも知れません。何が凄いかというと、背面に用意されたリムーバーの使いやすさです。背にあるスイッチをスライドさせて(この操作で本体を握っても針が出なくなります)、後ろに付いているフックを綴じてある針の下に差し込みます。そして本体を握れば、本当にスムーズに針が外れるのです。紙もほとんど傷みません。「これだけ外すのが簡単だと、ホッチキスで綴じるシチュエーションも増えるんですよ」という高畑さんの言葉通り、ガイド納富は、このステープラーを手に入れてから、本当に気軽に書類や名刺を綴じるようになりました。
ガイド納富の「こだわりチェック」
高畑さんは、子供の頃、ドラえもんになりたかったのだそうです。「日常生活の中で困っていることがあったら、それを助ける道具が出せるというのがいいなと思っていました。それで問題が解決したりすると本当に嬉しいですよね」と笑っていました。今では、ちょっとした事、少しの工夫を伝えていきたいと考えながら、新しい文具を考えているのだそうです。
高畑さんがずっと愛用しているというヴィクトリノックスのナイフ「トラベラー」を見せていただきました(右の写真です)。これは、1985年、当時小学五年生だった高畑さんが家族旅行で筑波科学博に行った時にスイス館で買ったもので、それからずっと愛用しているのだそうです。常に肌身離さず持ち歩いて、自分で研いで使い続けているのだそうです。「これはハサミがついてるのがいいんですよ。こういう、手についた道具を使っていきたいと思っています」と高畑さん。
文房具好きと言うと、万年筆などのコレクターが多かったりするのですが、高畑さんはコレクターではありません。普通に買えるモノや日常で使ってみて良いモノが好きな文房具好きです。個別に詳しい人は多くても、文房具の面白さをきちんと表してくれる人はほとんどいません。ガイド納富も、このサイトを通じて「使ってみて良いモノ」を紹介しようと試みていますが、その大先輩に当たるのが高畑さんなのです。
道具や文具を、第三者的に評価するのではなく、自分が使うツールとして、その面白さ、凄さ、楽しさを伝えていく。モノについて何か考えるというのは、そういうことだと高畑さんは教えてくれたような気がします。何より、良い道具を使うことは、とても楽しいことなのですから。
<関連リンク>
・サンスター文具のアイディア文具ページ
・高畑さんの本「究極の文房具カタログ【マストアイテム編】」(ロコモーション・パブリッシング、1575円)購入はこちらから
・コクヨ「カドケシ」の紹介はこちら
・トンボの多色ボールペン「リポーター」の紹介
・高畑さんがドイツで見つけた手遊びボールペン「Click Writer」のガイド記事はこちら