ミニッツリピーターは作らない?
今回、2008年のバーゼルワールドで発表した新作の紹介も兼ねて9月に来日したベルナルド・レデラー。数年来改良を加え昨年完成をみた「ブルー・マジェスティトゥールビヨンMT3」を披露しながら、自身の時計観を熱っぽく語る。「この時計の特徴の一つは、秒表示に用いられる“ハーフフライング・トゥールビヨン”にあります。2世紀前にブレゲが発明したトゥールビヨンの機構は、今なお幅広いメーカーによって採用されています。その後19世紀後半に、ドイツのグラスヒュッテでキャリッジの支持ブリッジを備えない、いわゆる“フライング・トゥールビヨン”が開発されたのですが、当時は発展がみられなかった。私は、それを進化させた“ハーフフライング・トゥールビヨン”を作ることによってトゥールビヨンの完成形を示したかったのです。」
「ブルー・マジェスティトゥールビヨンMT3」。「プラネット」の基本的な運動と同じくトゥールビヨン機構が回転しながら回転する、前代未聞の発想。手巻き。ホワイトゴールド・ケース。受注生産。予価3300万円(税抜) |
かなりの専門知識を要するので、ここではその機構の詳細にまでは立ち入ることは避けるが、これは、3つの回転速度を備えた時間フライング・トゥールビヨン、分フライング・トゥールビヨン、秒ハーフフライング・トゥールビヨンから構成される画期的な複雑時計である。
先に紹介した発言にあったように、彼は「伝統」をそのまま現代の製品にアレンジしてしまう手法をよしとしない。「たとえば、昔のクラシックカーにはたしかにクルマとしての味わいがあるが、それを今作ったところで無意味でしょう」と語る。「時計も時代に合わせて進化しなくてはならない」というのが彼の信念。独創的な設計によるブルーのトゥールビヨンは、その表明のみならず、オート・オルロジュリー(高級時計製造)の名のもとにマーケティングの発想から企画され、今では量産さえ行われているトゥールビヨンへのアンチテーゼでもある。それは紛れもなく時計師としての矜恃だ。
「独自のトゥールビヨンを完成させたので、次はミニッツリピーターに挑むのではという質問を受けますが、答えはノー。現在のミニッツリピーターは、古い時代の機構の縮小版といえます。進歩はしていない。時刻を音に置き換える精巧な機構や、その製作技術に対しては、私も時計師として敬意を払いますが、200年も昔ならいざ知らず、この現代社会にミニッツリピーターが必要かというと、やはり疑問に思えるのです。」
大組織のメーカーとは違い、ブランドを設立しても、独自の哲学や時計の個性を守るところに独立時計師たちの存在理由がある。「私の作る時計は、すべてが私の一部ですから」と語るレデラーも、それを当然のこととして大切にする数少ない一人である。ブランド名の「ブルー blu」とは“Bernhard Lederer Universe”、つまり「ベルナルド・レデラーの世界」に由来する。
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