時間に対する深い思索を形にした時計
初めてブルーの時計を目にしたときの印象は、今でも強烈に残っている。現在、「ブルー・プラネット」の名で発表され、ブランドの「顔」とも呼べる代表的なモデルが、じつに斬新をきわめていたからだ。神秘的な雰囲気に包まれたこの時計は、いったいどうやって時刻を読み取るのだろうか。のちにベルナルド・レデラー本人から説明を受けるまで、その仕組みはしばらく謎だった。左:「レディ・ブルー・アヴェンチュリン」。代表作「ブルー・プラネット」の流れを汲むジュエリーウォッチ。自動巻き。ステンレススティール・ケース、ダイヤモンド。249万9000円。右:「ブルー・オープンプラネット」。カーボンファイバー文字盤の窓から「プラネット」を司る、いわば秘密の機構を見せる。自動巻き。ステンレススティール・ケース。159万6000円 |
簡単に説明するとこうなる。まず文字盤自身が12時間で1回転しながら時間を表す。文字盤の中に置かれたもう一つの小文字盤も同時に回転するので、その外周にセットされた宝石が、いわば時針の針の役割を演じる。分については、小文字盤のセンターに置かれた1本の針の回転によって示される。時計のデザインとしてはシンプルの極致をゆくが、回転しながら回転する特殊なメカニズムによって時間をダイナミックに表現したのが、この「ブルー・プラネット」なのである。
カンの鋭い人なら、ここでピンとくるはずだが、こうした厳密な数学的な計算に基づく回転運動やサイクロイド曲線を描く軌跡などは、まさに天体の運動に似ている。「プラネット」という言葉通り、私たちが使う時間システムの起源になった宇宙が体現されているのである。彼はそうした時の神秘的なイメージと精巧な時計技術をみごとに融合させ、アーティスティックな時計へと仕上げ、ブルー特有のスタイルの基礎を築いたのだった。
公私ともに良きパートナーであり、ブルーの世界を創り出すベルナルド・レデラー(右)とエヴァ夫人 |
1958年にドイツのシュトゥットガルト近郊に生まれ、1980年代や1990年代を通じて独立時計師として実績を積み重ねてきたベルナルド・レデラーが、2000年にブルーを設立した際に思い切った発想転換に打って出たのは、「機械式時計の目標が、もはや絶対的な精度の追求ではなくなった」というのがそもそもの理由。もちろん、伝統に則って機械式時計の革新や進化に情熱を注ぐ技術者たちの努力を否定するわけではない。でも、自分にとっては、他に取り組むべきことがあると常々感じていたという。「伝統的な時計製造にさらなる秘訣は残されていません。我々が新しい伝統を作り上げる番です」としばしば語るように、彼もやはり21世紀に生きる現代の時計師として、旧式のパラダイムからの脱却こ意義を見出す一人なのである。
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