話題の150周年記念モデル
ヴァルカンといえば、なによりまずアラーム機構だが、150周年記念モデルの「アニバーサリー・ハート」は、伝説のアラーム・ムーブメントを表からも裏からも見せることによって、今一度ブランドの歴史を印象づける秀逸な腕時計である。ヴァルカン「アニバーサリー・ハート」。手巻き、アラーム機能付き。ローズゴールド・ケース。文字盤、シルバー、ブラック(写真モデル)、チャコールグレーの3色、各世界限定50本。189万円。他にステンレススティール・ケース、文字盤、シルバー、ブラック、コッパーの3色、各世界限定150本。57万2250円 |
搭載されているムーブメントは、部品の随所にスケルトン加工が施され、チャコールグレーで彩られた「V18」という新キャリバー。歯車やブリッジ、色彩などが時計全体のデザインの要素としてじつに巧みに生かされ、トレンディな雰囲気さえ醸し出しているのが興味深い。ケースバックもシースルーになっており、ハンマーがアラーム音を発する様子も目で楽しめる。
150周年記念モデルの中で、もう一つ興味深いのが、「クロワゾネ“ザ・ドラゴン”」。その名の通り、文字盤にドラゴンのモチーフを精巧なクロワゾネ・エナメルで描いたもの。新生ヴァルカンは、「クリケット」(コウロギ)、K2登頂、飛行機、世界地図、競馬などを描いたクロワゾネ・エナメルの限定モデルを毎年発表してきたが、それにもじつは背景がある。
ヴァルカン「クロワゾネ“ザ・ドラゴン”」。現代でもきわめて職人の数が限られる貴重なクロワゾネ・エナメルを用いる。手巻き、アラーム機能、ワールドタイム機能付き。ローズゴールド・ケース。世界限定30本。383万2500円 |
冒頭に述べたように19世紀の後半に創業したヴァルカンは、複雑機能を搭載する懐中時計で名声を確立した。だがそれと同時に、エナメルや彫金を凝らした美しい装飾でも名を馳せる存在だったのである。そうした伝統は、1930年代頃の懐中時計や腕時計にも受け継がれていた。戦後の「クリケット」登場以来、忘れ去られていた感のある貴重な伝統工芸を現代に復活させ、アラーム機構とエナメル、つまり「技術と美術の融合」を図ったのがこうした一連のシリーズなのである。
さてこの「ドラゴン」、クロワゾネ・エナメル文字盤、アラームおよびワールドタイム機構をすべて備える、おそらく現在世界で唯一の腕時計ではないだろうか。いずれにせよ、ヴァルカンらしさが贅沢に凝縮された最も魅力的なモデルなのは間違いない。
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