「イオス」をひっさげ2000年にデビュー
時計を発表するのは、なにもスイスの伝統を受け継ぐ著名ブランドや、ジュエラーやファッション系のブランドばかりではない。個人が創立した現代のブランドも数多くある。そうした才人たちが作る個性的な時計に巡り会うのも、毎年春にスイスで開催される時計フェアを訪れる楽しみの一つである。マーティン・ブラウンは、今年から新作発表の場をジュネーブ郊外のウォッチランドに完全移行する。「昔からの時計師仲間の多い古巣のバーゼルを離れるのは、ちょっと寂しいね」と語る |
さて、今回紹介する時計師のマーティン・ブラウンは、ドイツのカールスル-エ出身。1964年に彫金師の息子として生まれ、ドイツ宝飾産業の中心地フォルツハイムの時計学校を主席で卒業し、1991年にマスターウォッチメーカーの資格を取得。アンティーク時計の修復とともに自身の時計の開発に取り組んで研鑽を積んだ。そして2000年、日の出・日の入り表示付きの時計「イオス」を発表して、自身のブランドのデビューを飾った。
「イオス」。研究開発に5年、2000年に製品化された「イオス」はデビュー作にして代表作。4時と8時の位置から伸びる2本の長い針がそれぞれ日の出と日の入りの時刻を示す。自動巻き、18Kローズゴールド。225万7500円 |
当時のマーティン・ブラウンは、バーゼルの展示ホールの奥まった場所にごく小さなブースを構え、手持ちぶさたの様子で来客を待っている(失礼!)という印象だったのを今でも覚えている。いかにも独立時計師らしく、個人的な作風が濃厚なその製品は、取材者としては、未知数の部類に入った。
ところが毎年ブースを訪れて、「イオス」に平均太陽時と真太陽時の差を示す《均時差表示》を加えた進化バージョンの「ボレアス」や、太陽を巡る地球の公転の軌道を文字盤上に表示する「ザ ヘリオセントリック」などの紹介を受けるたびに、マーティン・ブラウンがいかに天体現象に深く傾倒しているかがわかり、俄然興味が湧いてきたのだった。幼い頃から宇宙に関心を抱いていたという彼は、時計という機械を通じてそれを表現すべく複雑機構を考案してきたという。メカニズムの開発という技術的な才能に秀でているばかりでなく、想像力豊かなロマンティストでもあったのだ。
「ヘリオセントリック」。地球の公転を視覚化したこのモデルは、文字盤の中心に太陽、楕円軌道上に地球を配し、その1年の周期を表示する。また文字盤右下に12星座の推移も表示。自動巻き、ステンレススティール。210万円 |
次ページでは話題の最新作「セレヌ」を紹介