機械式には手巻きと自動巻きがある
冒頭に述べたように、機械式時計の動力源はゼンマイである。ゼンマイは、16世紀頃にドイツで作られた小型時計に早くも利用されていたという。ゼンマイを巻き上げると物理的な力が蓄えられ、解ける際にその力が放出され、歯車が回転する。古いブリキの玩具を思い浮かべれば、よくわかるだろう。ゼンマイの巻き上げには、一般的に「手巻き」と「自動巻き」という2種類がある。参考までに、ここではスイスの老舗高級時計ブランド、パテック フィリップの現行モデルから、両タイプの写真を掲載する。パテック フィリップのムーブメントは、歯車の溝の一つ一つまで手作業で仕上げる徹底した仕上げや、高い品質などで評判が高い。
パテック フィリップ5959、スプリットセコンド・クロノグラフ。高度なクロノグラフ機能を備えるこの時計のムーブメントは手巻き。自動巻き機構をあえて用いないことで、厚さを抑えることができ、なおかつ機構も細部までよく見える。プラチナケース、時価 |
「手巻き」とは、文字通りケースから突き出たリューズを指で回してゼンマイを巻き上げる方式。戦前の腕時計では、これが一般的だが、戦後の薄型ドレスウォッチや現在の複雑時計でも、手巻きは健在である。英語では、Hand winding あるいは Manual winding だが、たんに Mechanical と表記される場合も多い。
自動巻きにも二種類ある
「自動巻き」は、ゼンマイを巻き上げるための回転錘(ローターと呼ぶ)がムーブメントに取り付けてある。着用者の腕の自然な動きでこのローターを回転させてゼンマイを巻き上げる仕組みだ。英語の Automatic(オートマティック)も、商品名としてよく用いられている。自動巻きといっても、機械式ムーブメントの基本構造は手巻きと同じなので、手で巻き上げることも可能だ。またこのローターには、ムーブメントの中央に軸があり、その上に重ねられたタイプ(こちらが一般的)と、ムーブメントに窪みを設け、その中に小型の回転錘を組み込んだ「マイクロローター」と呼ばれるタイプがある。パテック フィリップ5135、年次カレンダー。修正不要で1年間のカレンダーを自動表示する便利機能を備えたこのモデルは、自動巻きムーブメントを採用。右側の半円形をしたゴールドの部品がローターだ。腕の動きでこれが滑らかに回転し、ゼンマイを巻き上げてくれる。イエローゴールドケース、369万6000円 |
パテック フィリップ5140、パーペチュアルカレンダー。自動巻き機構に、パテック フィリップ独自設計の「マイクロローター」(左側ゴールドの半円形部品)を用い、全体の厚みをかなり薄くしている。ホワイトゴールドケース、674万1000円 |
自動巻きの利点は、時計を腕に着け、腕を動かしているかぎり、ゼンマイが効率よく巻き上げられていることにある。ゼンマイがつねに巻き上げられていると、供給される動力も安定し、精度維持にも有利とされる。現在の腕時計に一般的な方式の先駆者は、戦前のロレックスに遡るが、戦後はさまざまな時計メーカーが独自に自動巻きの開発を行ってきた。ちなみに、ロレックスが自動巻き時計を「パーペチュアル」と命名したのは、「永久に」巻き上げ不要で動き続けるといった意味合いが込められていた。ただし、腕から外して放置すれば、手巻きと同様に、ゼンマイが解けきった時点で停止してしまうので注意したい。
【問い合わせ先】
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
TEL03-3255-8109