時計の役割の変化

クロノスイス・イメージ
伝統的なスイス機械式時計を追究するドイツのクロノスイスの製品から

時計を着けるのはなぜだろう? 現代では、時計を着けることが習慣として広く社会に定着しており、だれも、あらためて「なぜ」と疑問に思わないかもしれない。

ところがいまは、時計にとって、「時間確認の道具」という役割がしだいに薄れてきているのである。携帯電話には時刻表示があり、公共の場の至る所に時計があり、個人が時計を持たなくても、日常の仕事や生活にそれほど重大な支障を来さないからである。ためしに腕時計なしに一日を過ごしてみるとよい。逆に時間に縛られることなく、自由な感じさえするから不思議だ。

それでも、一方で時計人気は年々高まるばかりだ。ここ10年、スイスの本格的な機械式時計の復活にともなって、さまざまなブランドから毎年大量の新製品が発表され、一大ブームの様相を呈している。これまで、実用品レベルの時計で満足することも多かった男たちも、最新の時計情報に注意を払うようになり、高価な複雑時計をポンと購入する愛好家もめずらしくなくなった。

こうした熱いブームは、時計の歴史始まって以来のこととも言われている。しかしだれもが正確な時間を求めるようになったというのと事情は少々異なる。トレンドを敏感に読み取る最近の時計専門家たちは、その背景をこう分析する。「時計は、時刻を知るための道具ではなく、自分が愛用したいと思うような嗜好品の一種になってきた」と。

時計好きの裾野が広がる

ほんの少し前まで、「時計好き」といえば、内部の機構やさまざまな表示機能に大きな関心を寄せる一部の専門家やマニアたちだった。しかし、時計ブームは、その裾野をこれまであまり時計に関心のなかった人々にまで広げた。その過程で、時計は「生活道具」からますます「男の嗜好品」へと姿を変えていった。好きだからこそ、自分が満足できる時計が欲しくなり、高価な出費もいとわなくなる。作り手の側でも、消費者のいわば「心を動かす」商品づくりに拍車がかかるわけだ。
 
ブレゲとロンジン
日常愛用するクラシックな機械式腕時計より、ブレゲ(左)とロンジン(右)
好調な売れ行きを反映して、スイス時計産業もいまや開発ラッシュが続いている。2000年以降、大手ブランドでは工場や設備の拡充が目立ち、また独立時計師たちが自分のブランドを創設する例が相次いでいる。シンプルな時計から高度な複雑時計まで、より個性的で魅力的な商品が次々と登場し、まさに百花繚乱の状態だ。

では、豊富なラインナップの中からどのようなモデルを選べばよいか。選択肢が一挙に広がったために、なかなか見極めが難しくなってきたのも事実だ。ブランドか、機能か、デザインか。

これから始まるシリーズでは、とくにそんな「時計好き入門」の方たちに、さまざまな角度から「男の腕時計」についてご案内したいと、考えている。時計は長く付き合うべきものなので、時計選びのヒントとしてお役に立てれば幸いである。

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