心の底から“祭”を楽しむ
アウディR15は新開発のV10ディーゼルターボエンジン(TDI)を搭載。最高出力600ps以上、最大トルク1050Nm以上を発生する |
午後4時。レース、スタート。
印象に残ったことが3つ。
アウディやプジョーといったディーゼルカーは、エグゾーストノートがとても静かで、時速290キロからの減速ではほとんどジェット戦闘機のように空気を切るような音しか出さないということ。
それに比べて、12気筒ガソリンエンジンを積むアストンマーティンは、これぞ天を舞うサウンド、心がしびれる素晴らしい音を聞かせてくれる。
そして、コルベットZ06。ドバドバドバーッと実に男っぽい。これぞ、ザ・マシン。地響きのようなサウンドが耳にこびりついて離れない。
夜の帳が降りると、そこかしこで賑やかなパーティが始まった。アウディブースもコンサート会場に早変わり。レースをやっている連中は大変だろうが、観る方の多くは24時間すべてをレース観戦にあてるほど律儀じゃない。夜とレーシングサウンドという、ちょっと不思議な空気を一時間も楽しんだならば、お次は大宴会へと突入だ。
宴会は、サーキットの中だけじゃなかった。外のキャンプ村でも、レストランでも、バーでも、キャンピングカーの中でも、広場でも、土手でも、とにかくそこら中でビールとワインを飲みまくっている。心の底から、ル・マンという“祭”を楽しんでいる人たちがいた。
結局、私は十一時半頃までレースを観て、一度、レーシング・ホテルに帰った。シャワーを浴びて、少し眠ろう。
ところが、どうだ。はっと目覚めてみれば、まだ二時前。しかし、レーシングサウンドがすぐ耳に入って来るのだからたまらない。眠気なんて、さっさと吹き飛んでしまう。よし、行くぞ!
モニターにはアウディR15の速度、回転数、ギア数などが刻々と表示される「テレメトリーシステム」が映し出される |
レースはフランスのル・マン市郊外、1周約13キロのサルテ・サーキットで行われている |
東の空が青白くなってきた。ブースを抜け、外に出る。オイル、ゴム、バーベキュー、ビール、いろんな匂いが混じった、けれどもなぜか爽やかで凛とした空気が気持ちいい。張り切って、パドックを歩き回る。
ル・マンのレースにおいて、最大の難関は、朝を迎えることだという。実際、朝を目前にしてクラッシュするマシンが相次いだ。
朝食は、ふたたびコース脇のテラスで。南ドイツのチームらしく、白いソーセージが出た。縦に半分に割って皮をむいて食べる。前を一晩戦い抜いたマシンが轟音を響かせて通り過ぎる。どのマシンも等しく美しい。
昼、バーベキューを楽しんでからちょっと気分転換にと、ミュージアムに訪れた。ここには歴代のマシンが飾ってある。確かに名車揃いだったけれども、コンディションが悪い。“死んだクルマ”特有の臭い(油が腐ったような)がたまらなく厭で、ほとんど素通りするかのように表へと出てしまった。自動車の博物館は、好きだけれども苦痛も伴う。決して動かないクルマを見て楽しむことは、いつも難しい。ミーティングのようなものなら、動いてきたことが分かっているし、少なくとも、死臭はしないものだ。
雨がパラついた。予報では雨がきて、大波乱の可能性も……と思われたが、結局、最後まで大きく崩れることはなかった。
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